ニコ・ロズベルグはトラブルでストップしてしまいましたが、結局今回もメルセデスAMGが圧倒的なまでの強さ、速さを見せつけました。ルイス・ハミルトンが2番手バルテリ・ボッタスに付けた差は最大で42秒。ロズベルグのリタイア後はペースを落とし、マシンを労わりながら走ってのトップチェッカーでした。誰にも太刀打ちのできない、圧倒的な差です。
そのハミルトンは赤旗中断後、ミディアム-ハード-ハードと繋ぐ2ストップ戦略を実行しての勝利でした。その他、トップ10でフィニッシュしたドライバーのうち、再開後のレースで2ストップ戦略を実行したのは5位セバスチャン・ベッテルと9位ダニール・クビアトのふたりだけ。当初ピレリは「2ストップ戦略が主流となるはず」と言っていましたが、今回のレースでの主流の戦略は1ストップ。2位ボッタスも、3位リカルドも、4位バトンも、1ストップでした。なぜ、このようなことが起きたのでしょうか?
レース中の各マシンのラップタイムを見ると、どのマシンにもタイヤのデグラデーション(劣化による走行ペースへの影響)がほとんど出ていないことが分かります。それは、ミディアムタイヤでもハードタイヤでも同様。赤旗掲示前にハードタイヤの使用義務を消化し、結局50周を劣化の早いミディアムタイヤ2セットで走り切ったフェラーリのフェルナンド・アロンソにも、デグラデーションは全くと言っていいほど見られませんでした。つまり今回のイギリスGPは、タイヤ交換を少なくした方が得なレースだったと言えそうです。
ベッテルは、当初ソフトタイヤでスタートしましたが、赤旗中断の際に新品のハードタイヤに交換しました。チームはここでタイヤの使用義務を消化し、後の戦略の自由度を広げたつもりだったはずです。しかしレース再開後、マクラーレンの2台にひっかかってしまったベッテルは、10周を走り切ったところでピットイン。これでジェンソン・バトンをアンダーカット(先行車よりもタイヤ交換を早め、新しいタイヤで飛ばすことで順位逆転を狙う戦略)にいきました。
ただし、バトンはなかなかピットに入りません。結局、バトンがピットに向かったのは28周目。そう、彼は1ストップ作戦でした。これによりベッテルは、ピットストップを1回多く行うことで失う時間を、コース上で挽回する必要が出てきたわけです。しかも、他のマシンの多くも1ストップ戦略であり、ベッテルはそれらのマシンをコース上でオーバーテイクしながら、バトンよりも速く走らねばなりませんでした。しかしベッテルのレッドブルRB10は、コーナリング性能は高いものの最高速では劣り、オーバーテイクを苦手とするクルマです。レースの終盤、アロンソをなかなか抜けなかった姿に、それがよく表れていると思います。
結果的にベッテルは、バトンの後ろでフィニッシュ。同様に早めにタイヤを交換することで順位逆転を狙いにいったクビアトも、その対象であったニコ・ヒュルケンベルグを最終順位で逆転することはできませんでした。結果論ではありますが、今回についてはベッテルとクビアトの戦略は、失敗だったと言えそうです。
状況を見極め、戦略を途中で変更することで表彰台を得たのがダニエル・リカルドです。彼はベッテルの5周後にピットに入り、ハードからミディアムへと交換しました。当初は彼も、ベッテル同様2ストップの予定でしたが、回りが1ストップであること、自らのペースが落ちないことを察知したリカルドは、自らの判断で1ストップに変更。ミディアムタイヤで37周も走らなければならないというのは、かなりの冒険だったはずですが、これを見事に成功させ、バトンの追撃も振り切って3位を得ています。
小手先の戦略ではなく、周囲の状況を把握して最適な戦略を実行することの大切さを、我々に教えてくれたのが、今回のイギリスGPでした。ベッテルとクビアトは“策に溺れた”と言ってしまっては、言い過ぎでしょうか?
今回もうひとつ驚いたのが、ウイリアムズの速さです。予選での失敗により後方からのスタートだったウイリアムズ。フェリペ・マッサは1周目のアクシデントで姿を消しましたが、残ったバルテリ・ボッタスは次々に順位を上げ、2位表彰台を得ています。ほぼ同じ位置からスタートしたフェラーリのアロンソは、6位が精一杯。ボッタス2位最大の要因は、FW36の最高速に他なりませんが、大きなダウンフォースが必要なここシルバーストンで、メルセデス以外を圧倒した強さに、同チームの成長がうかがえます。今やウイリアムズは、どんなコースでも、メルセデスに次ぐ地位を築いたように思います。
次回はホッケンハイムリンクで開催されるドイツGPです。ドイツはメルセデスの母国。当然必勝を期してくるでしょうし、優勝候補筆頭であることは間違いありません。その次に速いのは、やはりウイリアムズでしょうか? ドイツGP決勝は7月20日(日)です。
(F1速報)