いつもはパドックの端に居を構えているケータハムF1チームのモーターホーム。訪れるメディアの数は少なく、その閑散とした雰囲気を可夢偉はかつて「これが下位チームなんだと実感した」と表現したことがあった。
しかし、イギリスGPが行われているシルバーストンでは、ケータハムのモーターホームは、ピットガレージの関係からパドックの入口から程近い所。初日から多くの関係者が足を運んでいた。もちろん、エントランスから近いことが真の理由ではない。チームのオーナーがグランプリ直前に交替したことが最大の理由である。
シルバーストンには、チームの売買交渉をアドバイスしたと言われているアドバイザー的存在のコリン・コレスと、チームの運営を指揮することになっている元F1ドライバーのクリスチャン・アルバースの姿があった。ところが、チームはグランプリ開幕前日の木曜日に、コレスやアルバースをメディアの前に登場させることはなかった(一部のジャーナリストに対して予定されていた会見も次々と延期された)。そのため、木曜日に予定されていたケータハムのドライバー会見が、オーナー交替についてメディアがチーム内部の人間からコメントを聞くことができる唯一チャンス。そのため、大勢のメディアがケータハムのモーターホームに集まったのである。
通常、可夢偉の会見には日本人メディア以外に2~3人しか外国人メディアは集まらない。そのため、先に英語での会見を行い、それが終わってからゆっくりと日本語で会見を行うのが慣例である。この日も最初は2人しか可夢偉の会見にやってこなかったため、私たち日本人メディアは外国人に先を譲り、隣のテーブルで待っていた。しかしその後、続々と各国のメディアが集まり、10人以上に膨れ上がって、質問はいつまで経っても終わらなかった。
その様子を見ていると、可夢偉を囲んでいた外国人メディアの背中越しに、スウェーデン・メディアの取材を受けているマーカス・エリクソンの姿が見えた。つまり外国人メディアにとって、チームの売却についてのコメントを聞きたい相手は、エリクソンではなく可夢偉だったのである。そして、自分と契約を交わした人間がシーズン途中でチームから離脱するという厳しい状況に直面しながらも、外国人メディア相手に真摯に応える可夢偉を見ながら、ドライバーとしてだけでなく、人間としても大きく成長していることを実感したのである。
オーナーが交替した直後、ルノー・スポールはケータハムで代表を務めていたシリル・アビテブールをルノー・スポールに復帰させたこと発表した。ケータハムはまだアビデブールの後任を発表しておらず、いまだチーム代表は不在のままとなっている。しかし、私の中ではイギリスGPの週末、チームを代表しているのは可夢偉だったと思う。そして、そのような状況に可夢偉を追いやったフェルナンデスとアビテブールには、そもそもオーナーや代表の資格はなかったと言いたい。