今年で92回目となった「2014パイクスイーク・インターナショナル・ヒルクライム」で、EVモディファイドクラス優勝、そして総合でも2位、3位を占めたミツビシチームが3日、都内の本社で凱旋会見を行い、エースであり監督の増岡浩が現地での戦いの模様を語った。
ミツビシは、今季のために改良を施した新型マシン『MiEV エボリューションIII』をパイクスピークに投入。現地に入ってからも好調を維持し、練習走行~予選にかけてすべてのセッションで1-2を刻むなど、圧倒的な速さを見せつけた。
「3年目の挑戦で、念願のEVクラス優勝を成し遂げました。これもチーム、若いエンジニアたちの努力、そしてパートナーの協力があってこそ。改めて応援してくださった皆様にお礼を申し上げたい」と挨拶した増岡。しかし、現地ではさまざまなアクシデントが発生していたという。
「4000mを越えると空気密度が4割減ります。その点からも空力は重要だし、タイヤも1回り大きく、グリップ向上に合わせてブレーキも4ポットから6ポッドにするなど車両の開発を進めてきました。ミツビシとしてもここまで巨大なウイングを採用したクルマは初めてで、シェイクダウンではスポイラーが外れてしまうアクシデントもあった」という。
今季マシンのダウンフォースの大きさを物語るアクシデントだが、その他にもフロントサスペンションを組み直した際の配線ミスで、4輪統合制御のS-AWCを始めとした電子デバイスが機能せず「スタートでは40mもブラックマークを残し、コーナーのブレーキングではABSが効かずにタイヤがロック、ガードレールまで3mに迫って冷や汗をかいたり」したことも。
「だからこそチームのメンバー全員に『データ解析をとにかくしっかり』と話しました。エンジニアも僕らも、どんな異音、異変にも気づけるように。『レースでの心配事をなくして戦えるようにしよう』と話し続けました」
そのおかげで、増岡自身も、そしてクラス優勝を勝ち取ったチームメイトのグレッグ・トレーシーも、マシンに全幅の信頼をおいてのアタックが可能になったという。
「国内での開発から、岡崎(三菱自動車研究所)でのテストでストレートラインでのトラクションコントロールテスト、半径30Rの定常円旋回で速度を上げていって、どこで破綻するか。これは4輪の統合制御のテスト。そしてJターン、クルマはブレーキングからターンインが一番不安定になりますので、そのときにどこまでスタビリティを確保できるか、のテスト。(今回のマシンは)脱出重視のセッティングとして、とにかく踏んでコーナーを曲がれるマシン作りを心がけてきました」
「実際にはトレーシーと僕でドライビングスタイルが少し違って、彼の方が操作が早く、スロットルのオン・オフが多く、舵角も大きい。だから僕のセッティングのままだと『敏感すぎる』と言っていました。ですので現地では彼のクルマだけ少しスプリングを柔らかくしたりして、それが高感触だったようです。お陰で彼は高速コーナーがとにかく速い。逆に中・低速コーナーでは僕の方がタイムがいい。ふたりを足して2で割れれば完璧だったんでしょうけどね(笑)」
最終的に、圧倒的速さで悲願のクラス制覇を果たしたミツビシチームだが、総合優勝のポルシェワークス・ドライバー、ロマン・デュマの駆る『ノルマM20RDリミテッド』には、わずか2.5秒というタイム差にまで迫ってもいた。
ミツビシにとっては“3年計画最後の年”、だっただけに「来季以降の参戦は未定」としながらも、会見に出席したEVビジネス本部長の岡本金典氏は「全長20kmのコースで全コーナー数は156。そこで2.5秒差ということは、コーナーひとつにつき0.015秒程度詰められれば、と思っております」とコメント。
増岡も「9分は切れる、なんて大口を叩きましたが、コース後半の砂などの影響がなければ……」と、さらなる領域への可能性を口にした。
「ただなにより、3年目で皆さんの期待に応えることができて、本当にうれしい。重要なのはこの技術を市販モデルにいかにフィードバックできるか。ここからが勝負でもあります」
来月の参戦をアナウンスしたアウトランダーPHEVでの「アジアン・クロスカントリーラリー」を含め、「モータースポーツへの関与は積極的に続けていく」というミツビシ。EV、PHEV技術の実験場としての機能はもとより、S-AWCの異次元の旋回性能に磨きをかけるべく、来季のパイクスでも『Evolution』の走りが見られるか。今から楽しみに待ちたい。