2014年シーズンのGP2シリーズにカンポス・レーシングから今季から参戦している佐藤公哉は、第4大会レッドブルリンクのレース1はリタイア、レース2は19位となった。決勝レース後、モナコから公哉のレースを見守っていたマネジメントチーム兼レーシングチームであるユーロノバ・レーシングのオーナー、“タキ井上”こと井上隆智穂は、佐藤公哉と連絡をとった。
●まさかのスペイン2敗目に、チームの雰囲気サイアク!?
井上隆千穂(以下タキ):もしもーし? もしもーし?
佐藤公哉(以下公哉):はい。公哉です。
タキ:オーストリア、レッドブルリンクのGP2レース、お疲れさま。
公哉:井上さんもお疲れさまでした。
タキ:いやいや、僕はモナコに引き籠っていて、今回は何もやっていないけれどな。
公哉:あれ? 井上さんの声がちゃんと聞こえますね。
タキ:うん。いま、先日買ったiPad miniで話しているんだけど、ノートパソコンもMacとWindowsを買い揃えたんでバッチリだよ。
公哉:オーストリアの通信回線はあまり状態がよくないんですが、これなら大丈夫ですね。
タキ:で、レースはどうだった?
公哉:レース前から、すごーく重苦しかったですよ。
タキ:いったいどうしたの?
公哉:サッカー、ワールドカップのブラジル大会です。水曜日(6月18日)にスペイン対チリがあったでしょう? 僕らはテレビを観ながら夕飯だったんです。試合前からカンポスのスタッフはノリノリで、ハビエル・ボノさん(注:チームコーディネーター&ロジスティック)なんかはスペイン代表の最新ユニフォームを着込んで応援していました。
タキ:カンポスは生粋のスペインのチームだしな。
公哉:でも、前半だけで2点も取られて、みんな意気消沈ですよ。敗色濃厚になると誰も話さなくなって、フォークとナイフがお皿にカチカチと当たる音だけが聞こえて、まるでお通夜ですよ。もう、居心地が悪くて悪くて……。
タキ:……(汗)。
公哉:それで、「日本も初戦のコートジボワールに負けているし」とみんなを慰める意味で僕が言ったら、「日本はまだ1敗だけだろう? スペインはここで負けたら2敗目なんだ! もう、グループリーグ突破は無理なんだよ!」と突っ込まれまして……。
タキ:ヤブヘビだったな……。
公哉:あまりに居心地が悪かったので、夕食の席はお先に失礼して宿へ帰っちゃいました。
タキ:なるほど……。そりゃあそうだよな~。
●コースの中でも外でも不完全燃焼
公哉:まあ、木曜日にはみんなも気を取り直していたように見えましたけれど。
タキ:じゃあ、練習走行と予選のあった金曜日からはとくに問題がなかった?
公哉:いえ、問題がありまくりでした。
タキ:……(汗)。
公哉:クルマはコーナーで滑りまくりで、いつどこへ飛んでいっちゃうか分からない。スタンドのお客さんを喜ばせることはできたかもしれませんが、僕自身は冷や汗かきまくりですよ! 持ち込んだクルマのセットが完全に外れているという感じでした。
タキ:……(汗)。
公哉:正直、これほどクルマに手を焼いた経験は初めてですし、予選でも決勝でもこれほどうしろの方でウロウロしている経験も初めてなので、ちょっと勘弁して欲しいと思っています!
タキ:で、具体的に問題は?
公哉:とにかく、彼らが作ってきたクルマのセットがおかしいというか、僕には合わないんです。これまでアブダビとバーレーンで2回のテスト、バーレーンとスペインとモナコで3回のレースがありましたし、僕のドライビングスタイルも把握してもらっていると思っていたんですけれどね。たしかに、過去のドライバーのデータやチームメイトのデータも大切でしょうが、もう少し柔軟に対応してもらわないと困りますよ。しかもですね~……(注:延々30分以上、公哉は不満を漏らす)。
タキ:うんうん。よーく分かった……(汗)。
公哉:え? ホントに分かってもらえました? まだ半分くらいしか言いたいことを言っていませんよ。もう、僕自身はかなり不満が溜まっていて、オーストリアでは宿の隣のピザ屋に通い詰めでヤケ食いでしたよ!
タキ:え? ということは、お酒も飲んだの?
公哉:レースウイークなので、それはさすがに控えました。でも、ピザ屋さんにポッチャリ系の可愛い女の子が居たので……
タキ:ちゃんと口説いたの?
公哉:いえ、毎晩通い詰めだったのに「来年、また会いましょう」と最後の日に言われて……。
タキ:だめよー。しっかり口説いて決めないとな!
公哉:……(汗)。
●次のシルバーストンでは安心だよ!
タキ:ともかく、次のシルバーストンには僕も行くから安心だよ!
公哉:え? タキさんもいらっしゃるんですか?
タキ:え? 迷惑かな?
公哉:いやいや、え~……なんて言ったらいいんですかね?
タキ:公哉くんのドライビングもしっかり指導したいし、夕飯もしっかりと用意しておくからね!
公哉:後者は喜んで。でも、前者は謹んで遠慮させていただきます。
タキ:なんだよ! つれないなあ。
公哉:いや、ホントに勘弁してください。
タキ:ところで、エイドリアン・カンポスさん(注:チーム代表)とは話している?
公哉:ええ。「何か不都合があれば何でも話してくれ」とは言ってもらっています。でも……。
タキ:なるほど。難しいものがあるよな。
公哉:もしも、シルバーストンの練習走行でも状況が変わっていないようであれば、ピットガレージに戻らずそのままクルマに乗って、ロンドンのルートン空港に乗りつけて神戸へ帰るかもしれません。
タキ:……(汗)。
公哉:本音ですよ。まあ、実際には無理かもしれませんが、それくらいの気分です。
タキ:分かった。とにかく、僕はシルバーストンへは木曜日の午後に入るつもりだから。GP2電撃移籍の道もF1電撃参戦の道もあるから、そこは早まらないように……。
公哉:それ、本当ですか?
タキ:……(汗)。
公哉:まあ、まったく期待しないで朗報を待っています。とにかく、このままでは終われませんし、このままで終わるつもりもありません。
タキ:その意気だな! 僕も頑張るよ。
公哉:ということで、シルバーストンでは井上さんには夕飯の段取りだけ、お願致しますね。
タキ:う、うん。任せておいて……(汗)。
(Kojiro Ishii)