オーストリアGPは、メルセデスAMGのワンツーフィニッシュに終わりました。予選でフロントロウを独占したウイリアムズは、結局3位と4位。メルセデスAMGはブレーキに若干難があったものの、大きなトラブルの無い状態で、今季初めて他チームに苦しめられました。
とはいえ、ウイリアムズの戦いぶりは、ちょっと残念だったように思います。戦略次第では、もっとメルセデスAMGを苦しめることができたはずですし、場合によっては勝ちも狙えたはず。そう思えてならないのです。
まずは最初のピットストップです。3番手を走行していたメルセデスAMGのニコ・ロズベルグは、11周目に上位勢の先陣を切ってタイヤ交換を行います。これで6番手まで順位を落とし、フォースインディアのセルジオ・ペレスの後ろでコースに復帰。その2周後、今度はルイス・ハミルトンがピットインしますが、ロズベルグの後ろになります。ウイリアムズはと言うと、その翌周にようやく動き、まずはフェリペ・マッサをピットに呼び込みます。しかし、このピットストップで、メルセデスAMGの2台が先行。その次の周にバルテリ・ボッタスもピットインし、なんとかハミルトンの前では戻ったものの、ロズベルグが前になってしまいます。
メルセデスの側からしてみれば、新品のタイヤを先に履いてペースを上げ、先行車の前に出るといういわゆる“アンダーカット”戦略を成功させたという格好です。これを成功させるためにハミルトンはピットイン直前にとても速いラップを記録し、ロズベルグもピットアウト直後にスーパーラップを刻んでいます。
ただ解せないのは、順位を争っているロズベルグがピットに入ったにも関わらず、なぜウイリアムズはすぐ次の周にマッサなりボッタスなりをピットインさせ、ロズベルグの前を抑えなかったのかということ。“ペレスとの差を十分開くのを待った”のかもしれませんが、8周目頃からマッサとペレスのペースはほぼ一緒であり、いずれにしてもペレスの前でコースに復帰するのは不可能。それならばせめてロズベルグの前を抑えることを、2台のうち1台でもトライさせていれば、結果が異なった可能性もあります。
確かにギャンブル的要素を秘めていますし、成功しなかった場合の代償(今回の場合はタイヤが最後までもたないかもしれない)は大きいかもしれません。しかし、敵はそのギャンブルにトライしました。ロズベルグはレース後のコメントで「ウイリアムズを抜くために、ピットに早く入るというアグレッシブな方法を選んだ」と認めています。本来ならばメルセデスAMGが採った戦略は、挑戦者であるはずのウイリアムズが採らなければならない戦略だったのではないでしょうか?
また、マッサとボッタス共に、ピットイン前後のラップタイムが遅いことも気がかりです。特にマッサは、ピットアウトした周のタイムがボッタスに比べても3秒も遅く、これもメルセデスAMGに先行を許す大きな要因になりました。
ただ、ペレスがロズベルグの前を抑えたことで、ロズベルグ~マッサまでは非常に僅差の接近戦を繰り広げることになります。しかも、ペレスがピットインして前が開いた後も、ウイリアムズのふたりはメルセデスAMGに離されることなく、食らいついていきます。35周目頃までは、まだ勝利の可能性はウイリアムズにもありました。
ハミルトンが39周目に2回目ピットインを行ない、マッサの“アンダーカット”を封じると共に、ボッタスを“アンダーカット”することに成功。ピットアウト直後に自己ベストの周回を記録してポジションを確固たるものとし、これで今季見慣れたワンツー体制を完成させます。しかも、今度はハミルトンに対してボッタスは3周、マッサは4周遅れての反応。この時点でウイリアムズの勝ちは、完全に消し飛んでしまいました。“勝ちを狙いに行ったのではなく、最後までしっかり走り切る”ことに重きを置いたのかもしれませんが、すぐに反応するか先に動いておけば、勝利の可能性が目に前にあっただけに、貪欲に狙いに行って欲しかった……と考えるのは私だけでしょうか?
レース後のマッサのコメントも印象的でした。「我々は進化した。しかし、メルセデスとのギャップを埋めるために、まだ働かなければいけない」。彼らがより進化して、貪欲に勝利を狙える日が来ることを、切に願いたいと思います。
ところで、メルセデスAMGとウイリアムズが接近戦を繰り広げた後方で、単独5番手をひた走ったドライバーがひとりいました。それが、フェラーリのフェルナンド・アロンソです。上位4台には及ばなかったとはいえ、6位以下のマシンよりも圧倒的に速いペースで走行。しかも第2スティント、ソフトタイヤを履いてからのペースは、上位4台とほとんど同じでした。
実はこの傾向は、初日フリー走行2回目でも見られました。アロンソはソフトタイヤを履いて、ほとんどデグラデーション(タイヤの劣化)の兆候を見せることなくロングランを実施。しかも、ウイリアムズと同等かそれ以上のペースで走行していました。チームメイトのキミ・ライコネンは、まだマシンに慣れないのかあまり元気がありませんが、マシン自体は確実に進化してきているのが感じ取れます。
最初のスティントのペースの悪さ(それでも6位以下と比べれば速いのですが……)は、上位4台と比べて予選で2周多く使ったタイヤでスタートしなければならなかったからと考えられます。これが上位と同条件だったら、もっと接近した争いができていたはず。最終的にはマッサを交わして4位という可能性があったかもしれません。
また、前回のカナダGPに引き続き、レースを面白くしてくれたのはフォースインディアのペレスでした。前回は各車2ストップのレースに1ストップで挑んでトップ争いに加わり、今回は多くのマシンと異なるソフトタイヤでのスタートを選択して、11周にわたりトップで周回。フォースインディアもフェラーリ同様、フリー走行2回目でかなり良いロングランを行っていました。そのため、他とは異なるタイヤ戦略で戦うことを選択し、それが功を奏したのでしょう。あわよくば1ストップを狙っていたのかもしれません。しかし、26周目を過ぎた頃からペースが極端に落ち、ピットストップを強いられます。それでも、15番グリッドスタートで6位フィニッシュですから、十分すぎる結果と言っていいでしょう。
最強メルセデスAMGに対し、今季初めて“ガチンコ”での勝負を挑んだウイリアムズ。しかし、貪欲に勝利を狙うことはしなかった……そう感じたのが残念だった、11年ぶりのオーストリアGPでした。