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【F1プレビュー】オーストリアで輝く峠マイスター

2014年06月20日 08:40  AUTOSPORT web

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2003年以来の開催となるオーストリアGP。リニューアルされたレッドブルリンクを象徴する赤牛の巨大なモニュメント
コース自体は2003年までグランプリが開催されたA1リンクと変わらないけれど――サーキットの真ん中に大きな“赤牛"のオブジェが置かれ、ホームストレートを挟んで内側ではピット/パドック施設が大改装され、外側にはメディアセンターを含む立派なビルが建設された。正面にピットガレージ、背景の斜面にコースを見渡せるプレスルームからの眺望は、シーズンでも最高。

 大渋滞の末に到達したメディアセンターだったから、この景色を目にしたときの解放感はなおさら素晴らしかった――木曜日は、サーキットゲートのすぐ近くまで来てから2kmの移動に2時間以上を費やした。アクセスが1本しかないのはA1リンク時代からの欠点で、それはまったく改善されていない。

 木曜日はオーストリアが祝日で、サーキットへの入場が無料だったことも手伝って、大勢のファンがやって来た。周辺に宿泊施設がないため、その大半はキャンピングカー……大混乱はチームにとっても予想外の事態だったようで、木曜到着のチーム関係者がスーツケースを引っ張りながら渋滞の横を延々と歩いていく姿を多く見かけた。

 そんな関係者とは対照的に、のんびりしているのがオーストリアのファン。ウィーンからの高速道路でトンネル入り口が赤信号だったときもそうだが、この国の人たちは渋滞するとすぐにクルマから降りる。高速道路では他のドライバーと適当に話していると思ったら、サーキット近くでは缶ビール片手に降りてきて、道路脇に腰を下ろしていた――全然、急いでいない。でも、大切なルールは守る。トンネル入り口で止まったとき、2車線の真ん中が緊急車両用に空けられている様子は見事なほどであった。

 A1リンクの時代にこのサーキットを走った経験があるのはキミ・ライコネン、フェルナンド・アロンソ、ジェンソン・バトン、フェリペ・マッサの4人だけ。コースを知っていても11年前とはマシンもタイヤも大きく異なるため、予想は難しいと言う。基本的には、事実上のコーナーが7つしかない単純なコースで、ストレート中心のレイアウトはパワーユニット的に見るとモントリオールに似ている――コーナーが少なく運動エネルギーを回収する機会が少ない一方で、ストレートでは熱エネルギー回生が行われることになる。標高700mの気圧で十分な酸素をエンジンに送り込むためには、タービンもフル稼働しなければならない。ふたつの点から、タービン/MGU-Hにとって負担の大きなレースになる。

 4本のストレートと低速コーナー、若干の高速コーナーという点では、バーレーンにも類似する――車体的にはバーレーンとセットアップが似てくる。スーパーソフトとソフトが投入される点は、モントリオールと同じ。コーナーは7つのうち5つが右コーナーのため、左フロント、あるいは左リヤへの負担が大きくなる。一方で、日射が少なく路面温度が上がらないと、右フロントのウォームアップに苦労する可能性も高い――1周4.326kmの短いサーキットでは予選のタイムが接近することは必至で、タイヤが作動領域から数℃外れただけでグリッドが大きく変わってくるのだ。

 DRSゾーンはホームストレートと、山の上の2コーナーから3コーナーにかけての2本。最終コーナーとそのひとつ手前は高速の右コーナーが続くため、おそらくレッドブルが得意とする区間――彼らに先行されるとここで接近するのは難しく、したがってホームストレートのDRSは活かせないことになる。下りの高速コーナーは「走るのには楽しい。でも、オーバーテイクは難しい」と、ドライバーたちが言う。ただし、前戦の勝者ダニエル・リカルドが「今年は前のマシンに近づいて走ることが可能になった」と話している点は注目――レッドブルの場合は最終区間で前に近づき、ホームストレートでオーバーテイクするチャンスがあるかもしれない。

 メルセデス勢にとっては、1~2コーナーの上り坂でトルクを活かして、2コーナーの先のDRSゾーンで勝負することが可能になる。ただし1コーナーも2コーナーも坂の上で路面がフラットになる、難しい“ブラインド"。コーナー数の少ない単純なコースだが、フリー走行で十分な感覚をつかんでおくことが大切だ。

 トラブルがなければメルセデス・ワークスが圧倒的であることに変わりはないけれど、オーストリアGPではフォース・インディアにも注目。タイヤ戦略が上手く、カナダでも表彰台目前だった中堅チームが、シーズン初の大きなアップデートを投入してくるのが今回。山道に強いニコ・ヒュルケンベルグに、初表彰台のチャンスが訪れるかもしれない。セルジオ・ペレスのグリッド降格ペナルティは金曜日に再検討されるが、フォース・インディアの戦略を考えると、たとえペナルティが変わらなくともペレスにもチャンスがある――むしろ、チームにとっては作戦の幅が広がるかもしれない。

 A1リンク時代よりはるかに多くのファンが予想される、久しぶりのオーストリアはレッドブルチームの母国グランプリ。メディアセンターの長所は、1コーナー出口の大きな観客スタンドが見渡せることにもある。セバスチャン・ベッテルとリカルド、どちらが声援を集めるのかも楽しみな要素だ。
(今宮雅子)