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<児童ポルノ法>山田太郎議員「ネットで集めた意見」をもとに質問(参院質疑・上)

2014年06月17日 21:11  弁護士ドットコム

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児童のわいせつな画像などの単純所持を禁じる児童ポルノ禁止法改正案が6月17日、参院法務委員会で可決された。今後、参院本会議で可決、成立する見込みだ。


【関連記事:<児童ポルノ法>山田議員「マンガ規制につながる可能性はあるか?」(参院質疑・下)】



法務委で質問に立った山田太郎参院議員(みんなの党)は、ニコニコ生放送の番組企画やツイッターなどで募った1200通の意見をもとに質問するユニークなスタイルで注目を集めた。山田議員の質疑の模様を上・下の2回に分けて紹介する。



質疑の前半部分は以下の通り。



●「性的な虐待がおこなわれているが、顔だけを写した動画」は、「児童ポルノ」か?


山田:子どもの性虐待の防止は非常に重要だということで、本法案の趣旨はわかる。議論の過程で、マンガやアニメが検討事項に入っているということは大変おかしいと、選挙公約、それから議員になってからも主張している。マンガとアニメが附則から落ちたということは、ほっとしている。



ただ、この問題が抱えている問題・限界もあると思っているので、しっかりと質疑したい。本法律の議論において、いろんな方々から関心が高いということで、ツイッターやニコ生、ホームページで、どんなことを聞いてほしいかという意見を求めたところ、1200通くらい届いた。若者の関心が高い領域だと思う。



まず、児童ポルノの定義からいきたいと思う。18歳未満の児童に対して、「性的な虐待が実際におこなわれているが、顔だけを写した動画」や、「精液を顔にかけられたが、服を着ていて裸ではない写真」、「服を着ている状態だが、動物の性器に無理やり触れさせられている写真」、「服の上からロープでムチを打っている状態のSMの写真で、特に性器の強調がないもの」。それから、「性的虐待中の音声ファイル」。こういった性的虐待の事実の記録物も存在している。



本法律は、こういったものに対する禁止事項にあたるのか、あたらないのか。



遠山清彦・衆院議員(公明、提出者):大変重要な、しかし答えるのが難しい質問をいただいた。本法律の第2条1号から3号の「児童ポルノ」のいずれかに該当するか否かは、個別具体的な事例に応じた証拠関係に基づいて、判断すべきことがらであるという原則を確認したいと思う。そのうえで、今、ご指摘があったところを法文に即して判断を申し上げたい。



まず、「性的な虐待が実際におこなわれているが、顔のみを写した動画」だが、顔のみが描写されていて、性的部位が描写されていない場合には、本法律に基づく児童ポルノには該当しないということになる。



「衣服を着けた児童に、精子がかけられている」ということだが、この一字だけをもって、児童ポルノに該当するという判断はできない。



「動物の性器を触っている例」は、これは法律の中に「他人の性器等を触る」という表現があるが、これににわかに該当するということはないので、この一字をもってだけで、児童ポルノに該当するとはなかなか判断しにくい。



「服の上からロープで縛られていて、性器等の強調がない」ということは、これも同じように、この一字をもって児童ポルノに該当するとは判断がしにくい。



「性的虐待の音声」も、「視覚により認識することができる方法により描写したもの」というのが、児童ポルノの定義に入っているので、このことだけをもって該当しないものと考える。



しかしながら、山田委員がご承知のとおり、いま申し上げた事例は、それぞれの事例を一つだけ切り出したもの。たとえば、これらが重なりあって、動画であれば動画全体の中に、法律で規制対象になるような要素が含まれていれば、総合的かつ客観的判断として、児童ポルノとみなしうる場合もあろうかと思う。



また、本法律に基づく児童ポルノではないが、明らかに児童虐待にあたる証拠になりうる画像である場合もある。その場合は、その関係法規に基いて、必要な措置が考えられると思う。



●議論がぐちゃぐちゃになっているのではないか?


山田:「モザイクをかけて、裸の部分が隠れている、性的部位が隠れているのは微妙だ」という答弁もあった。



この法律は本来、児童を性虐待から守るという法律でありながら、虐待が明らかにおこなわれている場合においても、取り締まれないケースがかなりある。子どもを性的虐待から守ろうとする個人法益なのか、それとも性の社会的風潮に秩序をもたせようとする社会法益なのか。どうも議論がぐちゃぐちゃになっているのではないか。



入り口としては「子どもを守る」ということだが、出口としては取り締まる対象物が「児童ポルノ」になっている。つまり、裸かどうかということが、論点の中心になってしまっている。衆議院段階からも質疑を拝見しているが、ずっとそういう議論が続いている。本当に、子どもの性虐待を守ろうというのであれば、記録物が頒布されないよう単純所持を含めて取り締まっていこうということであれば、この法律はまだまだ大きな問題を抱えていると思う。



遠山:山田委員のご主張は共感する部分がある。この法律の名前にあるように、「児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰また児童の保護に関する法律」で、それを超える、児童に対する虐待あるいは人権侵害等については、他の関連法案で対処している部分も多かろうと考えている。



本法律の目的が、第1条で書かれている。さきほど、第3条の2の総則において、「児童に対する性的搾取または性的虐待に係る行為をしてはならない」とあるが、客観的に証明しうる児童ポルノというかたちで出ているものについて、その提供罪や所持罪を処罰化したものという整理をしている。委員の考え方には、私も異論がない。



●コスプレイヤーが自分の写真をアップロードしたらどうなるか?


山田:コスプレイヤーの方から質問が多かった。「非常に心配である」と。たとえば、自撮りで、3号ポルノの要件に該当するような写真をホームページでアップした場合、頒布罪としてこの法律で取り締まられる可能性があるのか?



谷垣禎一法務大臣:証拠に照らし合わせて、個別に判断しなければ、該当するかどうかは申し上げにくい。ただ、一般論として申し上げれば、いわゆるコスプレ写真であるか否かに関わらず、2条3号の要件を満たす写真等をネット上にアップロードしていく行為は、被写体となっている児童本人がこれをおこなう場合も含めて、児童ポルノの提供罪、あるいは公然陳列罪が成立しうる場合があると考えている。



山田:まさにこの法律は、被害者である子どもを守るはずが、自ら加害者になってしまうケースもある。やはり個人法益なのか、社会法益なのか、法律の立て付けをきちっと議論してスタートすべき部分もあったと思う。



次に、「興奮」の主体について質疑させていただく。衆議院の議論で、現行法の2条2号および3号に言う「性欲を興奮させ、または刺激するもの」というのは、「一般人」を基準に判断するべきものと解されていると承知するという答弁があった。



一般的に、3歳の児童に対して、性的に興奮するというのは考えにくい。仮に、3歳の子が犯されていて、一般人がそれを見て、私は目を覆いたくなるが、決して興奮することはない。たとえば、3歳の児童は本法律の対象外になってしまうのか?



椎名毅・衆院議員(提出者、結いの党):個別の事案に関して収集された証拠に基いて判断されるべきことがらではあるが、一般論としてお答えすると、児童の裸体等が人の性欲を興奮させ、また刺激するかどうかは、個別具体的な事案に応じて、性器等が描写されているかどうか否か、動画等の場合に児童の裸体等の描写が全体に占める割合、児童の裸体等の描写と諸般の事情を総合的に検討して判断すべきである。



3歳だから、という児童の年齢のみをもって、判断すべきものではないということだ。



山田:3歳だからということを言っているのではなくて、一般人というのは何かということをぜひご答弁いただきたい。「対象物を見た場合に、一般人が性的興奮をするもの」ということだが、その「一般人」がよくわからない。誰か一人でも興奮したら、児童ポルノになってしまうのかどうか。



椎名:「一般人」とは、どういう人を指すのかということを問題にされているのかもしれないが、そこはなかなかこういう人が一般人だとは言えない。外形で見ていくしかない。つまり、問題になっている児童ポルノとされるものの外形で見ていくしかない。さきほど申し上げたように、性器等が描写されているか否か、動画等の場合に児童の裸体等の描写が全体に占める割合がどうなっているのか、児童の裸体等の描写方法を総合的に検討して判断するしかないと考える。



●「児童ポルノ」の名称を変更しないのか?


山田:今回、えん罪というか、犯罪の対象が広がるかどうかということは、まさに性的に興奮するという定義があいまいだと、非常に不安が残るところだ。



やはり、名称等の問題、この法律の目的性をもう一度考え直す必要があるのではないか。たとえばインターポール、国際警察機構も、「児童ポルノ」という呼称を使うことによって、児童に対する性的搾取や虐待ということが、実は矮小化されてしまっている、と。児童ポルノや幼児ポルノという用語は犯罪者が使用するものであって、警察司法機関・公共機関・メディアが使用する正当な用語であってはならない、ということを国際的に言っている。



「児童の性的虐待を示す素材」とすれば、虐待がされているというものに対して、取り締まりをおこなうということに変わる。ポルノであるとかないとか、裸が見えているとか見えていないとか、そういったことで虐待が定義されることはおかしいと思う。名称を変えるべきだ。



これも1万3000名くらいの投書が集まった。しっかり子どもの性虐待を守るというかたちに名称を変えたらどうかという議論もある。名称変更をするということはどうか?



遠山:名称変更の要望等については、今回の実務者に参加した答弁者5名にも、各種団体から送付されているため、実務者協議の場でも議論になった。「児童ポルノ」という呼称よりも、「性的虐待あるいは性的搾取が記録されているものを取り締まる」という趣旨を明確にすべきではないかという意見については、あまり異論が出なかった。



他方で、今回改正案をはかっている「児童買春・児童ポルノ禁止法」が制定されてから、すでに15年が経過している。「児童ポルノ」という用語に対して、いろんな意見があるのは事実だが、すでに社会の中に「児童ポルノ」が何を指すかということについては、一般国民の理解において定着性がみられる。すなわち、「児童ポルノ」は「児童に対する性的虐待を記録したもの」」という認識が社会に浸透している。そういった観点から、「児童ポルノ」という呼称をたただちに変更すべきであるとは考えないという合意に至った。そのまま法律の名前は維持した。



山田:私自身は、この法律が変な方向にいかないように、名称と目的も合致するものにしてもらいたい。そうであれば、マンガとアニメの議論も附則で検討するというナンセンスな話にならなかったはず。虐待があるかどうかという話を中心にしていれば、ポルノの定義に終始することはなかったのではないかと思っている。



警察庁に伺いたい。所持していることが明らかであっても、性的目的があるかどうか、合理的な理由があるかないか分からない段階で、本法律に違反するかどうかの捜査をおこなうケースはあるのか?



辻義之・警察庁生活安全局長:刑事訴訟法189条第2項は、「司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする」と規定している。ご指摘の場合は、そのような目的があるのかどうかということについて、まさに捜査をしていくということになると思う。



●事前の破棄命令について、検討しなかったのか?


山田:事前の破棄命令のあたりも少し伺いたい。京都府や栃木県には、青少年健全育成条例がある。児童ポルノ単純所持については、行政による「事前の破棄命令」が存在している。本法律において、たとえば、えん罪だとか萎縮効果を防ぐために、今回の改正案で、事前破棄命令について、検討はされなかったのか?



椎名:ご指摘の通り、いわゆる京都方式や栃木方式というかたちで、児童ポルノに相当する文書について、単純所持を規制する際に、行政による事前廃棄を命令するというものを介在させる例がある。栃木県では、県の公安委員会によって、児童ポルノの廃棄命令を出し、それに違反した場合に処罰するという構成になっている。



これについても実務者協議の中で、検討した。諸外国における単純所持規制の中で、事前の廃棄命令を課さずに直罰としている例が多いことや、自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノの所持規制に関して、仮に事前の廃棄命令を介在させたとしても、実効性の面で問題があるとして、採用することにならなかった。



山田:国内の条例にはいくつかあるわけだから、本当はこの法案の中でも、もっと審査していただければ良かったなと思う。



(参院質疑・下に続く・・・マンガ規制につながる可能性はあるか?)



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