2014年06月12日 18:50 弁護士ドットコム
「第3のビール」として140円で飲めていたお酒が、「発泡酒」として20円ほど値上がりする。そんなニュースが話題だ。サッポロビールは6月4日、ビール系飲料「極ZERO(ゴクゼロ)」について、製法を見直したうえで、「第3のビール」よりも税率が高い「発泡酒」として、7月から再販売すると発表した。
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報道によると、同社は国税当局から、「第3のビール」に当たるのかどうかを確認するため、製造方法の情報提供を求められた。同社側は「第3のビール」という認識を改めてはいないが、製造過程で発泡酒扱いになる可能性を完全には否定できず、業者などへの影響を考えて販売停止に踏み切ったようだ。
「第3のビール」から「発泡酒」になると、酒税の追加納付が116億円になる可能性があるという。「第3のビール」と「発泡酒」では、実際どの程度税率が違っているのだろうか。また、なぜこのような区別をしているのだろうか。酒税にくわしい久乗哲税理士に聞いた。
「まず、酒税法の仕組みを説明しましょう。発泡酒や第3のビールは『発泡性酒類』と分類されます。その酒税率は、『麦芽』がどのくらいの比率で含まれているかによって、4段階に区分されています。
まず、麦芽使用率が50%以上の場合、税額は1キロリットルあたり22万円です。普通の『ビール』は67%以上ですので、これに当たります。
麦芽使用率がビールに満たない場合、『発泡酒』と呼ばれます。50%未満25%以上の発泡酒は1キロリットルあたり17万8125円。25%未満の発泡酒は同13万4250円になります。店で売られている発泡酒は、25%未満のものが主流ですね」
それでは、「第3のビール」は?
「『第3のビール』は、『その他の発泡性酒類』という区分になり、1キロリットルあたり8万円となっています」
一段と税額が安いが、定義はどうなっているのだろうか?
「『その他の発泡性酒類』として分類されるためには、次のどちらかに当てはまらなければなりません。
(1)糖類・ホップ・水と政令で定める物品(大豆・エンドウ・トウモロコシなど)を原料として発酵させたもの。
(2)麦芽比率50%未満の発泡酒に、大麦または小麦を原料とするスピリッツを加えたもの」
つまり、このどちらかに当てはまれば、税額が安くなるわけだ。サッポロの「極ZERO」は従来、この(2)として販売されていたが、今回の事態を受けて、今後は製造方法を見直したうえで、発泡酒として販売されることになった。
350ml缶1本だと、どれぐらいの価格差になるのだろうか?
「350mlに換算すると、第3のビールで28円、発泡酒(麦芽25%未満)で47円、そしてビールで77円の酒税ということになります」
なぜ、ビールに対する税金は、こんな風に細かく分かれているのだろうか。
「麦芽が多く含まれている方が『ぜいたく』だからという理由でしょうね」
ビールは「ぜいたく」というよりは、むしろ誰にも親しまれる飲み物という感じだが・・・。久乗税理士は次のように話していた。
「この区分は、ビールの歴史と密接に関係しています。ビールへの課税は1901年から始まりました。その後、第二次世界大戦時は食糧不足により、ビールの原料である大麦も供給不足となりました。
ビールの税率は昭和の後半にもどんどんあがり、その後高止まりしています。いまだに、このころのなごりが残っているのでしょうね」
【取材協力税理士】
久乗 哲 (くのり・さとし)税理士
税理士法人りたっくす代表社員。税理士。立命館大学院政策科学研究科非常勤講師、立命館大学院経済学研究科客員教授、神戸大学経営学部非常勤講師、立命館大学法学部非常勤講師、大阪経済大学経済学部非常勤講師を経て、立命館大学映像学部非常勤講師。第25回日税研究賞入選。主な著書に『新版検証納税者勝訴の判決』(共著)等がある。
事務所名 :税理士法人りたっくす
事務所URL:http://rita-x.tkcnf.com/pc/
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