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中途退学の生徒に「授業料を全額返さない」のはダメ! 予備校が裁判で負けた理由

2014年06月10日 19:31  弁護士ドットコム

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大手予備校の授業料をめぐる裁判で、「中途退学者に授業料を全額返還しない」という契約内容は違法だとする判決を、大分地裁がこのほど下した。判決は5月に確定した。


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この裁判を起こしたのは、大分県の適格消費者団体。「授業を受けてもいないのに授業料を全額返さないのは取りすぎだ」として、九州を中心に展開する「北九州予備校」の運営法人を訴えていたのだ。



今回の判決では、予備校と入学者が結ぶ在学契約の内容が、消費者契約法に反して違法だとされたのだが、どんな点が判断のポイントとなったのだろうか。消費者問題にくわしい福村武雄弁護士に聞いた。



●「大学の授業料」をめぐる最高裁判決が裁判の前提


「この訴訟は、大学の入学金等の返還に関する最高裁判決(平成18年11月27日)を前提として、争われています。その最高裁判決のポイントは、ざっと説明すると次の2点です。



(1)入学金は『入学できる地位の対価』なので、お金を払って入学できる地位を得た後で、その地位を放棄しても返還する必要はない



(2)授業料は『受講する授業の対価』なので、授業を受ける前なら返還すべきだ。ただし、他の学生を受け入れる機会を損なうといった損害が大学側にも生じるので、4月1日以降の入学辞退については、授業料の返還義務を負わない」



それでは、今回の受験予備校の裁判は?



「予備校側は、4月1日以降に入学辞退した場合には、損害が発生するので、授業料を返還しない契約条項は有効だと主張しました。つまり、『大学も予備校も同じだ』という主張ですね」



●受験予備校と大学の「違い」に着目


それに対して、裁判所はどう考えた?



「大分地裁は、この予備校の入学条件について、希望すれば原則として入学できたり、年度途中からも入学可能だという点が、大学とは異なると指摘しました。



したがって、大学とは異なり、入学辞退が4月1日以降であっても、他の学生を入学させるチャンスを失うといった損害は発生しないとして、契約の効力を否定したのです」



つまり、4月1日以降であっても、授業料を全額返さないのは行きすぎだとして、契約内容が消費者契約法に違反すると判断したわけだ。



●ほかの予備校にも当てはまるかどうかはわからない


福村弁護士はこの判決が「受験生やその親にとって有利」と指摘する一方で、次のような注意点を述べていた。



「今回の判決は、『北九州予備校の入学条件』から導き出した結論なので、すべての予備校に当然に認められる結論とは言い切れません。



たとえば、厳格な入学試験を実施して、中途入学を認めない難関大学進学のための予備校であれば、話が変わってくる可能性があります。



また、さきほどの最高裁の判断からすれば、入学金については、予備校でも返還義務がないことになると思われます。したがって、入学辞退の場合に、それまで予備校に支払った金額の全額が返還されることになるわけではありませんので、その点はご注意ください」


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
福村 武雄(ふくむら・たけお)弁護士
平成13年(2001年)弁護士登録、あすか法律事務所所長
関東弁護士連合会・消費者問題対策委員会元副委員長、埼玉弁護士会消費者問題対策委員会元委員長、安愚楽牧場被害対策埼玉弁護団団長
事務所名:あすか法律事務所
事務所URL:http://www.asukalo.com