稀に見る激戦となった今年のカナダGP。特に最後の25周は、手に汗握る展開で、一時も目が離せませんでした。最大7台による優勝争いの結果、今季初めてメルセデスAMGが勝利を逃し、レッドブルのダニエル・リカルドが自身初の優勝。実に面白いレースでしたが、いったい誰がこんな結末を予想できたでしょうか?
もうひとつ、メルセデスAMGが今季初めて失ったものがありました。それは、リードラップ(先頭で周回すること)です。実は今季のメルセデスは、開幕戦から前戦モナコまで、一度も他チームにトップを譲ることがありませんでした。しかし、ここカナダでその座を奪われた……奪ったのは、ウイリアムズのフェリペ・マッサです。
メルセデスAMGのふたり、ニコ・ロズベルグとルイス・ハミルトンは、MGU-K(モーター・ジェネレーター・ユニット・キネティック=運動エネルギー回生システム)のトラブルにより、37周目付近からガクンとペースが落ちます。これを見た4番手(実質的には3番手)のマッサは、「このタイヤで最後まで走り切るつもりで行こう!」という無線を受け、メルセデスAMGを追います。そして、ロズベルグが44周目、ハミルトンが45周目にピットインした際に先行、今季初めてメルセデスAMGからリードラップを奪いました。
メルセデスAMGの2台はタイヤ交換した後もペースが上がらず、しかもハミルトンは47周目にリタイア。マッサは47周目にロズベルグに対し3.874秒の差を築き、そのまま最後まで走り切る作戦に出る……かと思いきや、48周目にアッサリとピットイン。7番手に順位を下げてしまいました。
このシーンに『おや?』っと思った人、がっかりした人、様々いらっしゃったのではないでしょうか? 実は私も、レースを観ている時には『なんでだー!』と思ったくちです。しかし、レース後にデータを見て分かりました。マッサのタイヤは、この時点でもう限界を迎えていたのです。
マッサはスーパーソフトタイヤでスタートし、15周目に最初のピットインを敢行、ソフトタイヤに履き替えています。しかし、メルセデスに異変が見られるようになった44周目頃から、マッサのレースペースも徐々に下落。1周につき0.2秒ずつペースが落ちていき、48周目にタイヤ交換の判断を下しました。この交換をしなかったならば、徐々にペースを取り戻したロズベルグにはもちろん、セルジオ・ペレス、ダニエル・リカルド、セバスチャン・ベッテル、ジェンソン・バトンやフェルナンド・アロンソ、ニコ・ヒュルケンベルグらにも抜かれてしまっていたことでしょう。マッサの採るべきだった戦略は、タイヤ交換を遅らせるのではなく、もっと早くにタイヤを換えると決断することだったように思います。そうすれば、表彰台も見えていたはずです。
フォースインディアの2台も、レースを面白くしてくれた立役者。ペレスはスーパーソフトタイヤ、ヒュルケンベルグはソフトタイヤと、ふたりのドライバーでスタートタイヤを分けてきましたが、共に1ストップで70周のレースを走り切り、ペレスはあわや表彰台(最終周のクラッシュで11位完走扱い)という活躍、ヒュルケンベルグは5位入賞を手にしました。
彼らはトップスピードに優れているため、ペース自体は速いはずのレッドブル2台を、長い間抑え続け、ロズベルグにとっての防護壁となりました。もしフォースインディアの存在が無ければ、おそらくレッドブルが簡単に1-2フィニッシュをしたでしょうし、マッサが3位になっていたかもしれません。
最後に、多くの方が最終結果をご覧になって、「あれ? いつの間に?」と思ったことでしょう。そう、バトンの4位です。テレビにはまったくと言っていいほど映りませんでしたが、バトンはするりするりと順位を上げ、終盤にはボッタス、アロンソ、ヒュルケンベルグの3台を交わします。実は終盤、コース上で一番速いドライバーは、このバトンでした。持ち前のタイヤマネジメント能力を活かし、1分18秒台のラップを連発。48周目の時点で24秒あったトップとの差を、69周目には8.5秒まで縮めました。これは、1ストップのフォースインディアに前を抑えられなかったことも大きく寄与しているでしょうが、第2スティントとはまるで別人のようなペースでした。
メルセデスが初めて敗れ、動きの出てきた感のある今季のF1。次戦は2週間後、久々に行われるオーストリアGPです。グランプリを開催する“レッドブル・リンク”は、アップダウンが大きく、しかもコーナーが7つしかないという非常に特殊なコース。ダウンフォース量より、トラクションやトップスピードなど、パワーユニット性能の高さが求められそうです。となると、やはりメルセデスAMGが最有力。トラブルさえ起きなければ、彼らが圧倒的に速いのは間違いありません。それを本当の意味で止めるチームはあるのか? 自らの名が冠されたサーキットでレッドブル・レーシングが、今回の追い風に乗って連勝を果たすのか? オーストリアGPも見逃せません!
(F1速報)