「縁石に激しく乗らないように」という指示を受けてスタートした可夢偉のカナダGP決勝。スタート直後に目の前で発生した接触事故に巻き込まれることなく、レースは20周を過ぎていった。ところが22周目、可夢偉に突然トラブルが降りかかる。
「1コーナーに向けてダウンシフトして、ステアリングを切ったら、リヤ(のグリップ)がまったくなくて、スピン。どうなってるんだろうと思ってリヤを見たら、リヤサスペンションのキャンバーがすごいことになっていた。鬼キャン(鬼のように極端にネガティブなキャンバーになっていること)どころか、タイヤが路面に接地してない感じだった」
可夢偉はターン3とターン4の間のエスケープゾーンにマシンを止めて、レースを終えた。
「リタイアしてマシンを降りて見たら、リヤのトラックロッドがポッキリ折れていた。トラックロッドがあんな感じで折れるなんて、経験したことがないから、思わず笑ってしまった」という。
ここで可夢偉が笑ってしまったのには訳がある。カナダGPの週末は毎日、可夢偉のマシンにトラブルが発生していたからだ。金曜日はギヤボックス、土曜日はドライブシャフト、そして日曜日がトラックロッドだった。
「マーシャルから、いいところに止めてくれてありがとうと言われました。でも、マーシャルが運転するスクーターに乗せられてピットまで帰ってくるまでが大変だった。3コーナーの外側に帰る道があったんですけど、そこは人がひとり歩くのがギリギリのような狭い道なのに、そこをスクーターに乗せられて走ったので、何度も川に落ちそうになった。今日の一番の衝撃はそれでしたね」と、また笑った可夢偉だったが、その目は笑っていなかった。
マーシャルのスクーターに乗って、なんとかピットにたどり着いた可夢偉は、テレビで残りのレースを観戦。
「意外と楽しいレースでしたね。僕とは関係ないけど。今は、とにかくレースがしたい」
ドライバーが最低限のことを望まなければならない。それが現在のケータハムの実情なのである。
(尾張正博/F1速報)