2014年06月06日 17:30 弁護士ドットコム
ソフトバンクは6月5日、感情を理解するという人型ロボット「Pepper(ペッパー)」を一般家庭向けに販売すると発表した。販売価格は19万8000円。販売は来年2月だが、それに先立って6月6日からソフトバンクモバイルの銀座店と表参道店で「接客」にあたる。
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ペッパーには、人間の表情や声のトーンなどから感情を認識する人工知能が搭載されている。さらに、インターネットのクラウドシステムを使った学習機能も付いているという。
ロボット開発が25年来の夢だったというソフトバンクの孫正義社長は、記者発表で「今日は、コンピュータがあの日から変わったと言えるような歴史的な日になる」と宣言。「人の感情を理解し、人の心に寄り添うロボットにしたい」と抱負を語った。
ペッパーは家庭用パソコンと同じくらいの金額で購入できるとあって、ネットでも非常に大きな注目を集めている。このような動きをどうみるか。ヒューマノイドロボットの安全性の問題に取り組む小林正啓弁護士に聞いてみた。
――今回発表されたロボット(ペッパー)を見て、どういう感想を持ったか?
インターネットで会見を見て、驚いたことが二つあります。まずは、ロボットの上半身が、極めて人間に近い動きをするという点です。そして、人間との会話がうまく成立しているという点です。
映像だけでは、どれほど自律的な会話をしているのかわかりませんが、それを見る限りは、非常に滑らかな会話が成立していました。
――人間の感情を理解するというポイントについては?
「感情を理解する」という点ですが、ペッパーは本体が一定のアルゴリズムを備えていて、相手の言葉や顔の表情、声の強さ・高さなどを読み取って、「この人は怒っている」とか「喜んでいる」とかいう判断をするようです。
さらに、さまざまに読み取った情報や評価、「こういうふうに言うと人は喜ぶ」といったロボットの経験が、ネットとつながることで、クラウドに蓄積していきます。これこそが、ペッパーの最大の特徴だろうと思います。
「こういうことを言ったら人は喜ぶ」とか、「こういうときにこういう相づちを打ったらいい」とか、蓄積した情報を個々のロボットにフィードバックして、それによってロボットが成長していく。今回のプロジェクトの大きなポイントですし、ソフトバンクという通信会社が、ロボット開発に参画した大きな理由だろうと思います。
――法律的には、どのような問題が起こりうるか?
法律的な観点で言うと、人間とロボットの会話が何らかのかたちで、クラウドにいくわけですから、当然、プライバシーの問題がかかわってきます。
感情のやりとりということであれば、たとえば、女の子が部屋で、ロボットに対して、彼氏や家族の悪口を言うということがあるでしょう。また、男の子が恥ずかしいことをロボットに見せるかもしれない。そのような会話がクラウド上にあがるということなので、プライバシーの問題は出てくると思います。
ペッパーを共同開発したアルデバラン社のブルーノ・メゾニエ氏が会見で、「プライバシーは守る」と言っていましたが、そこはきちんとしてもらわないといけません。
――ロボットが「接客」するということだが?
いわゆる、飲食店のボーイのような接客は、まだまだできないと思います。実は、自慢話や愚痴を聞きつつ、相づちを打って、その人を喜ばせるというのは、東京・銀座にある高級クラブの女性が持っている技術なんですよ。
そこには社長とか先生と呼ばれる人が来て、若い女性を相手に自慢話や説教、愚痴などを言うわけです。それを嫌な顔ひとつせず聞いて、相づちを打つ。それは一つの職業的技術でして、客はみんな、スッキリして帰るわけです。
そのような意味での「接客の能力」というのは、すぐには無理かもしれませんが、クラウド上で情報を蓄積することで、もしかすると、ものすごいスピードで、銀座のクラブレベルに到達するかもしれません。
――ロボットが銀座のクラブで接客するかもしれない。すごい時代になりそうだ。
人の「感情」という意味で変化も起きてくるでしょう。ペッパーの「感情」はあくまでプログラムのなせるわざで、これをもって「感情を持っている」と断定することには科学的に問題があるんですが、おそらく「ロボットが感情を持っている」と思う人はでてくるでしょう。
猫や犬だけではなく、鳥やヘビに対しても感情移入するのが人間ですから、ロボットに対して感情移入する人もでてくるでしょう。
そうなると、ほんの数年くらいで、ロボットと心中するオタクが出てくるのではないでしょうか。ペッパーはわざと中性的な容姿にしているんだと思いますが、もし美少女の外見だったら、ロボットと結婚するというオタクが必ずでてくると思います。
――そんな未来には、どんな法律問題が発生するの?
どうなるんでしょうね(笑)。かつてコンピュータが世に登場したときは、人間の知的な部分で革命が起きたわけです。ロボットの登場は、人間の知的な面というよりも、むしろ感情という部分において、革命を起こすだろうと思います。
コンピュータが人間の知的な部分に革命を起こすことで、さまざまな法律問題がでてきたことと同様に、今後、感情の部分でさまざまな法律問題がでてくるかもしれません。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
小林 正啓(こばやし・まさひろ)弁護士
1992年弁護士登録。一般民事事件の傍ら、ヒューマノイドロボットの安全性の問題と、ネットワークロボットや防犯カメラ・監視カメラとプライバシー権との調整問題に取り組む。
事務所名:花水木法律事務所
事務所URL:http://www.hanamizukilaw.jp/