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パイクスピーク挑戦の増岡&ミツビシ “異次元4駆”でEV初の総合優勝を狙う

2014年06月03日 14:00  AUTOSPORT web

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パイクスピークに挑戦するMiEV EvolutionIIIについて語る増岡浩
2日、MiEV EvolutionIIIで3年目のパイクスピーク挑戦を表明したミツビシ。その発表当日、監督兼任でエースドライバーを務める増岡浩に、「3年計画の集大成」となる今季に賭ける意気込みを聞いた。

「今回のMiEV EvolutionIIIは、昨年のクルマの改良版になります。1年目の2012年は量産の電池とモーターで限界まで性能が引き出せるか。2年目は電池とモーターに競技専用の先行開発品を投入し、EVとしての総合的な性能向上を狙った。そして今年の3年目は、4輪の統合制御であるS-AWC、この熟成がメインのテーマになります」

 トラクション、ヨーモーメントなどを統合制御するS-AWCはランサー・エボリューションXでもおなじみの機構だが、組み合わされるのは内燃機関であるエンジンではなく、モーター&バッテリーから生み出され、瞬時にピークに達するEV特有の大トルク。『MiEVエボ』の基本メカニズムはモーターを4つ。前輪に関しては、ふたつのモーターを表向きに合わせてLSDで左右に分配。リヤは別々のモーターで駆動する形となる。

「とにかくレスポンスが最高ですね。駆動に対しても、回生に対しても、制御の介入がすごく俊敏。その中でいちばんいい制御を、開発を通して探してきました。4駆といっても前後はつながっていないですから、邪魔し合う者が何もない。ひとつひとつ単体で制御できる。コーナーの中で“良い意味で”まったく手応えがなくなります。それがドライバーの感覚としても違和感がない。普通、コーナーの中でアンダー、もしくはオーバーってなるときに、ハンドルの感触、手応えは変わりますよね。それがまったくない。直線を走ってるのと変わらない感じで走れます。それがアクセルオンでも、オフでも。僕はこれはある意味、理想の形だと思ってます」

 基本的な考え方は市販のS-AWCと同様だが、それに加えて、コーナーへの進入でアクセルを離してブレーキング、ステアリングを切ると、そこで「回生」が始まる。イン側のモーターで回生を強めることでターンインを助け、コーナー脱出に向けてはアウト側モーターの出力を増加させる制御を行う。いわゆる「トルクベクタリング」の考え方だが、その際にも4輪の車輪速は完全に検知され、「車両制御は本当にきめ細かく、絶対にスピンしないところまで持っていってます」というほど。「すべての制御は、個人的にはほぼ完璧に近いところまでいったな、と思ってます」と増岡は自信を見せる。

 平均勾配7%以上になる坂でも、250mの直線で簡単に200km/hを越えてくるトラクションを維持しつつ、「エンジン車ではパワーバンドを外したら、回復までにいくつかのコーナーを消費してしまう可能性もありますが、そうしたリカバーの部分でもEVはメリットがある」と増岡。そうした駆動系の進化に加え、車体側ではグリップとダウンフォースの追求もなされた。

「まずはタイヤですね。ダンロップさんと一緒にタイヤの開発テストとして走り込みを行って、出力増大とダウンフォース増加分を見越して大径化(260/650-18→330/680-18)を行いました。空力は岡崎(三菱自動車研究所)の実車風洞にも掛けて、コースで言えば空力分だけで15秒以上は短縮できる計算になってます」

 ヒルクライムレースの最高峰であるパイクスピークは、標高2,862m地点からスタートし、4,301m地点でゴールする約20kmのレイアウト。156のコーナーを駆け抜ける間に「風の影響も大きいですし、ゴール付近では空気密度も違いますから」と、空力に関してもかなり特殊な対応が必要となる。そこにテストコースではなかなか試す事のできない上り勾配のヘアピンが続いていく。「本当に探りながら。あとは常に左足ブレーキで、少しでも前が逃げ始めたら、軽く荷重を乗せてあげる必要があります」

 それだけに、ドライバーの感性に違和感なく応えるマシンが重要となる。「それはラリー車の開発の頃から変わらないんですが、誰が乗っても速く走れないと意味がない。いかに違和感なく、高い次元で、速く走れるか。このマシンも、パイクスが終わったら岡崎で量産の技術開発に向けたテストで使わせてくれ、ということになってます。毎年数字の上では進化してますしね。これは僕の個人的な意見ですけど、こういう技術が将来的なエボリューション、スポーツモデルなんかに入って行ければ面白いだろうな、と。それを望んで待っていただいてる三菱のスポーツモデルのファンの方もいらっしゃると思うのでね」

 市販コンポーネントを使用した『i-MiEV Evolution』から始まり、競技専用に進化した『MiEV EvolutionII』、そして今回の『MiEV EvolutionIII』と、EVではあるものの、そこにはかつて劇的な進化を遂げてきたエボリューションの系譜を感じる。

「本当に3年目で、経験も積んできて、クルマの仕上がりもドライバーの仕上がりもいい感じ。今年はしっかり結果を出す。本当に総合も夢じゃないと思うし、できれば9分を切る勢いで」

 EVによる初の総合優勝はなるか。今季のパイクスピーク最大の見どころになりそうだ。