ポルシェAGは27日、2014年のル・マン24時間に参戦するポルシェ919ハイブリッドの技術に関するプレスリリースを発行し、ハイブリッドテクノロジーについて解説している。
今季、WEC世界耐久選手権に参戦を開始したポルシェ919ハイブリッドは、トヨタTS040ハイブリッド、アウディR18 e-トロン・クワトロというLMP1-Hの2車種に対抗するべく開発されたプロトタイプカー。この車両について、ポルシェは「未来の市販車のための技術プラットフォームであり、実証試験でもある。WECのスターティンググリッドに並ぶ他のプロトタイプには、ポルシェ919ハイブリッドほど効率的で複雑なハイブリッドシステムを備えた車はない」としている。
2014年からのWECのレギュレーションでは最適なエネルギー変換効率が重要であり、エンジンサイズと排気量、そして回生エネルギーの貯蔵のタイプと方法はメーカーに依存する。ル・マン24時間が行われるサルト・サーキットでは、周回ごとにドライバーがブーストとして使用できる電気エネルギーの総量は制限されており、エネルギーレベルに対し最大燃料流量の制限もかかる。ポルシェは、2~8MJのテーブルの中からトヨタと同じ6MJを選択した。
結果的に、ポルシェ919ハイブリッドはサルト・サーキットにおいて1.67kWhのエネルギーを使用できる。この量は仮に、2013年ウイナーのアウディが走破した348周をポルシェ919ハイブリッドが走行すると、60Wの電球を9687時間という時間点灯させる電力に相当し、フォルクスワーゲンe-ゴルフなど、コンパクトクラスの最も効率的な電気自動車で4,576kmを走行できることになるという。
ポルシェはまた、極めて革新的な排気ガスによる熱エネルギー回生を備える。WECで唯一ポルシェだけが採用するハイブリッドシステムは、ウェイストゲートバルブの代わりに追加のタービンジェネレーターユニットを使用。バルブは通常、コンプレッサーの駆動に必要のない、排気ガスによる余分なエネルギーを大気中に逃すが、ポルシェはこのエネルギーを利用。今季のLMP1車両において唯一、制動時だけでなく加速時にもエネルギーを回生し、水冷式リチウムイオンバッテリーに貯蔵している。
「フロントアクスルにおける制動時の運動エネルギーの回生は、ブレーキング時にダイナミックに前方に移動する軸荷重によって大きなポテンシャルを備えるので、これを利用するシステムが論理的な展開といえた。私達は、このソリューションの選択によってリヤアクスルへのKERSの適用を諦めた。自然吸気エンジンから始めると、KERSが唯一の選択肢になる。しかしターボチャージャーを使用することによって他の選択肢が生じた。ターボチャージャーによって排気ガスからエネルギーを引き出すことを選択した理由はそこにある」とLMP1テクニカルディレクターのアレクサンダー・ヒッツィンガーは語る。
また、ヒッツィンガーはフライホイールやスーパーキャパシタを使用せず、水冷式リチウムイオンバッテリーを使用した理由について、「ポルシェのエンジニアとの協力で開発されたこのノウハウは、未来のハイブリッド車にメリットを与える」と言う。
このハイブリッドシステムに組み合わされる、新開発の2リッター直噴V型4気筒ターボエンジンもポルシェにとっては異型のシステムであり、「ダウンサイジングの先駆的な例」だという。V4という選択肢は、低重量なコンパクトサイズと構造的剛性および高出力の理想的な組み合わせからきているという。このエンジンは、ル・マンにおいては6MJとの組み合わせにより、1周13.629kmに対してわずか4.78リッターの燃料消費しか許可されていない。
ポルシェは、919ハイブリッドについて「急ブレーキと長く続くパワフルな加速。ポルシェはこの特別な条件に合わせて、運動および熱エネルギー回生システムを備えた、パートタイム4WDのポルシェ919ハイブリッドを開発した。精巧なバランスのエアロダイナミクスも、ル・マンにおいてポルシェ919ハイブリッドの優位性を保つ上で決定的な役割を果たす」としている。