2014年05月26日 23:10 弁護士ドットコム
STAP細胞をめぐる論文不正問題で、筆頭著者の小保方晴子・理化学研究所ユニットリーダーの弁護団は5月26日、理研の懲戒委員会に弁明書を提出した。
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この問題をめぐっては、論文不正問題に関する理研の調査報告書に対して、小保方リーダーから4月8日に不服申し立てがあった。これに対し、理研の調査委は5月8日、再調査を行わないことを決め、小保方リーダーの処分を決める懲戒委員会を設置していた。
弁明書の要旨によると、小保方リーダー側は「調査委員会が研究不正の解釈や事実認定を誤っており、調査の過程にも重大な手続違背がある。そのような審査結果を前提に懲戒委員会が諭旨退職及び懲戒解雇を行うならば、その処分は違法となる」と主張している。
小保方リーダーの代理人をつとめる三木秀夫弁護士が明かした弁明書要旨の全文前半は以下の通り。
調査委員会による認定判断は、下記のとおり研究不正の規程の解釈および事実認定を誤っており、調査および再調査開始審査の過程にも重大な手続違背があります。このような本報告書及び審査結果報告を前提に、懲戒委員会が「諭旨退職及び懲戒解雇」を行うならば、その懲戒処分は違法となるものと思料いたします。
懲戒委員会におかれては、公正かつ適切な判断の上、「研究不正」が認定されたことを前提とした懲戒処分をしないとの判断を求めます。小保方晴子は、論文作成の過程において、科学者として不適切な行為があったことについては深く反省しており、この点について何らかの処分がなされるとしても、行った行為と均衡する処分に留められるべきものと考えます。
記
〈調査委員会報告及び審査結果報告の誤りについて〉
第1 解釈手法について
1 規程の定義
「科学研究上の不正行為の防止等に関する規程」(本規程)で「研究不正」について定義がある。これについて、不服申立では、真正な画像・データが存在し、また再現性が認められるならば、これらにあたらないと主張したのに対して、調査委員会は、真正な画像・データが存在しようとも、また、再現性が認められようとも、「加工された画像が真正でないものになれば改ざん」であり、「データが論文に記載されている実験条件下で作成されたものでなければ捏造」であるとの解釈を示した。しかし、調査委員会の解釈は、法的観点からも社会通念上も、到底、是認できるものではなく、誤った恣意的解釈というほかない。
2 懲戒との関係
研究不正に関する懲戒処分は、諭旨退職又は懲戒解雇を原則とする極めて重い処分が就業規程に定められているところ、そのバランスからすれば、研究不正とされる行為は、重大な違反行為に限られると考えなければならない。労働契約法15条も、行為と処分との均衡原則を明らかにしている。
研究不正とされれば、原則として諭旨退職、懲戒解雇の処分を受けることからすれば、そのような処分を受けるに相当な行為のみが、研究不正に該当すると考えるべきであり、すなわち、「研究・実験自体が架空のものであるのに存在するかのように偽装」した場合のみが、研究不正にあたると解さなければならない。
3 厳格な解釈の必要性
(1)不測の損害、恣意的判断の排除
研究不正と認定・判断されれば懲戒処分に直結し、被通報者の将来の研究活動や生活に重大な影響を与えることからすれば、研究不正の解釈は厳格になされなければならない。安易な拡大解釈や類推解釈がなされたならば、被通報者は不測の損害を被ることになるばかりか、調査委員会による恣意的判断が許されることになる。
(2)「改ざん」の厳格な解釈
「改ざん」とは、「研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること」と定義づけられている。厳格な解釈をなせば、研究資料に操作が加えられ、データの変更が行われても、それが、結果の偽装(真正でないものへの加工)に向けられたものでない場合は、「改ざん」にはあたらない。Figure1iは論文上の掲載内容であり、「研究活動によって得られた結果等」それ自体ではないにも関わらず改ざんとした調査委員会の解釈は、上記の定義の範囲を超えた拡大解釈である。
(3)「捏造」の厳格な解釈
「捏造」とは、「データや研究結果を作り上げ、これを記録または報告すること」と定義づけられている。厳格な解釈をなせば、存在しないデータや研究結果を作出し、これを記録または報告することという意味であり、研究自体が架空である場合に限られると解さざるをえない。現に研究が行われ真正なデータが存在する場合や、再現実験によりその結果が得られた場合には、「データや研究結果を作り上げ」る行為はない。今回の調査委員会解釈は、上記の定義の範囲を超えた拡大解釈であり、恣意的判断というほかない。
4 本規程との整合性
「研究・実験自体が架空のものであるのに存在するかのように偽装」した場合のみが、研究不正にあたるという解釈は、本規程とも整合する。すなわち、本規程15条2項、同条5項は、真正データの存在や実験の再現により、架空の研究・実験ではなかったことが証明されたなら、「研究不正」ではないことが大前提となっている。調査委員会の解釈をとれば、真正なデータがあっても、再現実験が成功しても、捏造・改ざんになることになり、本規程の上記条項は、全く意味不明の条項となる。
5 「研究不正」と「不適切な行為」の区別の必要性
「研究不正」と「不適切な行為」を混同してはならない。「研究不正」は懲戒の対象となるものであり、「不適切な行為」は、信頼性の高い研究活動を実現するための科学者の行為指針である。「不適切な行為」があったからといって、即「研究不正」とされるわけではない。調査委員会は、この点を看過して、「不適切な行為」をもって「研究不正」決めつけたが、両者を混同したこの解釈は決定的に誤っている。
第2 レーン3の挿入について
(1)改ざんではない
「改ざん」の定義において、「研究資料、・・・・の変更や省略により」までは単に方法を示すものであって、主要な構成要件は、後半の「研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工する」という点にある。ここで、真正でないものに加工する対象は、「研究活動によって得られた結果等」であって、Figure1i(加工して論文に掲載した画像)ではない。
本件において、現に電気泳動ゲルの実験が行われ、写真1、2が撮影されている(中間報告書において確認されている)。それゆえ、写真1、2から得られた結果、すなわち、「DNAが短くなった、すなわち、T細胞受容体再構成がおこった細胞が含まれているという結果」こそが、「研究活動によって得られた結果等」である。「研究活動によって得られた結果等」が存在する以上、「研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工」した行為は存在しない。したがって、研究不正としての「改ざん」には該当しない。
調査委員会が問題としたのは、いずれも「不適切な行為」であり、研究不正としての「改ざん」ではなく、その意味で、問題がすり替わっている。
(2)訂正権を無視した誤り
小保方は、Figure1iの画像掲載について、2014年3月、著者全員から訂正の画像をNature誌に提出している。科学論文には、掲載方法の誤りについては、筆者の訂正権が認められているところ、小保方の行為の瑕疵は、この訂正により治癒されるべきでものあった。一体、何ゆえに、調査委員会は本報告書において、「改ざん」と判断したのか、不可思議というほかない。
調査委員会の最終結論は線を入れることを知っていたかどうかにすり替えられており、もし線を入れなかったことが改ざん認定の証拠となるなら、単に提示法だけの問題であり、改ざんに相当するものではない。仮に、科学的関連性を崩すものであり、そのような掲載が不適切な行為にあたるとしても、それは、訂正により治癒されている。
(3)悪意の点の誤り
本規程2条2項但書でいう「悪意」は、「故意」と同義であり、「悪意のない間違い」は「過失」を意味することについてはそもそも争っていない。しかし、こちらが指摘していたのは、悪意(故意)における認識の対象は、「データの誤った解釈へ誘導する危険性」では足りないということである。「研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工する」ことについての認識が必要であるところ、本件では、もともと「DNAが短くなった、すなわち、T細胞受容体再構成がおこった細胞が含まれているという結果」が存在しており、それを、真正でないものに加工するという行為自体が存在しないから、それを認識することはありえない。「改ざん」についての故意(悪意)がないことは明白である。
調査委員会が述べる「データの誤った解釈へ誘導する危険性の認識」は、科学者として不適切な行為である「データの誤った解釈へ誘導する行為」についての故意を問題にしているにすぎない。小保方には、そのような認識もなかった。真正な写真1、2が存在する状況のもと、もし、そのような認識があったなら、レーン3への挿入などするはずがないのであり、写真1と写真2を別々に掲載していたであろうことは、社会通念上疑いの余地がない。真正な写真1、2が存在するのに、データの誤った解釈へ誘導する危険性を認識しながら、レーン3を挿入することは、経験則上ありえない。そのような行為を行う動機がないのである。
この点について、再調査不開始時の報告は、論旨不明であるが、小保方において直線性の数理的解析について変遷があることを問題としているようである。しかし、小保方は、そこで指摘されているような説明を行った事実は無く、また、グラフも自己の作成したものではなく、誰に対しても、直線性の数理的解析を行ったという説明を行っていない。この点について理由補充書において具体的に事実を指摘したにも関わらず、調査委員会は、何らの確認もしないまま誤った事実認定をしている。
(4)Science誌査読者指摘をもとに認識を認定した点の誤り
調査委員会は、再調査不開始の意見の際に、Science誌の査読者からの指摘をもとに、異なるゲルに由来するレーンを区別すべきことについて認識があったと認定した。しかし、この点については、2014年4月27日に調査委員会から質問を受け、同年5月1日に、要旨以下の回答を行っている。
1 このScience誌のエディターからのメールでは、論文がreject(リジェクト―却下)されただけでなく、再投稿が許可されておりません。再投稿が許可されているのであれば、レビューワーからのコメントを精査したうえ、それに対応して訂正して再投稿すると思います。しかし、再投稿が許可されていない場合に、レビューワーからのコメントを精査することは通常ありません。再投稿できないので、それを検討しても意味がないからです。
2 また、他の雑誌にScience論文と同じ論旨の論文を投稿するのであれば、レビューワーからのコメントを検討すると思いますが、申立人は、このScience論文と同じ論旨の論文を、他の雑誌に投稿したことはありませんでした。このScience論文リジェクトの後、2012年12月からは笹井先生に論文指導を受けることになり、異なる論旨での論文執筆となりました。ですから、申立人は、Science誌のレビューワーからのコメントを検討したことはありません(正確には、コメントを読んだ記憶がありません)。
3 また、共著者(略)も、このレビューワーからのコメントを受け取っています(申立人が転送しています)が、もし、共著者がレビューワーからのコメントを精査していれば、ゲル写真の掲載について、問題提起がなされ共著者間で検討がなされたはずです。しかし、そのようなことはありませんでした。ですから、共著者も、申立人同様、レビューワーからのコメントを精査していないはずです。
4 理研コンプライアンス室からお送りいただいたメールの黄色ラインマーカー部分には、「ゲル写真に、白い線を入れるのが通常のプラクティス」とのコメントが記載されていますが、このようなコメントの存在を申立人は全く知りませんでした。4月27日にお送りいただいた黄色ラインマーカーを見て、はじめて、このようなコメントの存在を知りました。
この回答のとおり、小保方は、査読者からのコメントを精査していない。何より、2012年8月に、査読者のコメントを精査し、異なるゲルに由来するレーンを区別すべきことについて認識があったのならば、2013年3月の論文1の投稿にあたり、レーンを区別していたはずである。しかも、共著者も、このレビューワーからのコメントを受け取っているところ、仮に、共著者がレビューワーからのコメントを精査していれば、ゲル写真の掲載について、問題提起がなされ共著者間で検討がなされたはずである。しかし、そのようなことはなかったのであるから、共著者も、小保方同様レビューワーからのコメントを精査していないことは疑いがない。
以上のとおり、「データの誤った解釈へ誘導する危険性の認識」についての審査結果報告の認定は、全く何の証拠にもとついておらず、誤った推測を縷々述べているにすぎず、全く意味はない。
第3 画像取り違えについて
(1)捏造ではない
前述のとおり、現に研究が行われ真正なデータが存在する場合や、再現実験によりその結果が得られた場合には、「データや研究結果を作り上げ」る行為はなく、「捏造」にはあたらない。小保方の場合は、まさにこれにあたる。これに対する調査委員会の解釈が間違っている点は既述のとおりである。
(2)画像取り違えの経緯
これを要約すれば、論旨を変更したNature論文を仕上げていく過程において、画像の確認を怠ったために、画像の差し替えを忘れ、その結果、画像の取り違えが生じたのである。
論文についての考え方の変遷について述べると、学位論文(2011年3月)では、「物理的刺激により幹細胞化する」という論旨であった。次に、2011年4月から同年12月にかけては、小保方は、「体細胞に物理的刺激や酸による刺激を与えることにより幹細胞化する」という論旨で検討していた。この段階では、物理的刺激と酸刺激を区別して検討していなかった。ラボミーティング資料には、画像A2が用いられている。その後、2011年11月頃にはキメラ実験が成功したことから、2011年12月ころからは、小保方は、「ストレス処理により体細胞からキメラができた」という論旨で論文を作成することにした。2012年4月のNature論文(不採用)は、「ストレス処理により作製されたACC(Oct4+細胞)でキメラができた」という論旨であった。この論文においては、テラトーマについては、論文中に具体的な記述はなく、また、Figureも掲載されていない。査読用の付属資料には、テラトーマの画像(A2)が掲載されているが、あくまで補足的なデータであり詳細な説明はない。その後、Cell誌やScience誌にも、同様の論文(キメラを中心とした論文)を投稿したが不採用となっている。小保方は、2013年1月から笹井氏に論文指導を受けることになった。笹井氏からの助言を受けて、2013年1月中旬からは「酸処理によって得られた幹細胞の性質」という新たな視点で論文を纏め直すことになった。
その後、小保方は、2ヶ月弱の期間(2013年1月中旬から3月9日)に論文2報を執筆した。この論文執筆にあたっては、今までの論文から大幅な変更が必要であった。すなわち、データはすべて酸処理によって得られた幹細胞からのデータに差し替える必要があり、また、キメラだけでなく、Oct4+細胞の性質を分析する様々な実験(inVitro実験やテラトーマ実験など)を追加する必要があった。この時に、小保方は、テラトーマの免疫染色の画像について、酸処理のものに差し替える(画像A2を画像Bに差し替える)のを忘れてしまったのである。
(3)調査委員会報告書の誤り
報告書においては、<1>「この実験条件の違いを小保方氏が認識していなかったとは考えがたい」(本報告書7頁下から11行目)、<2>「学位論文と似た配置の図から切り取った跡が見える」から切り貼り操作をしたはずである(本報告書7頁下から10行目)ことから、捏造にあたるとした。また、<3>2012論文に、画像A2が用いられていることも、根拠の一つにされていた(本報告書7頁10行目以下)。
しかし、<1>については、何ら合理的根拠に基づかない推測にすぎない。<2>については、画像A2は、学位論文の画像を切り貼りしたものではなく、ラボミーティング用のパワーポイント資料にsphere細胞からの奇形種形成の免疫染色データ画像として用いていたものであり、切り貼り操作は無関係である。<3>については、2012年論文は「ストレス処理により作製されたACC(Oct4+細胞)でキメラができた」という論旨であり、テラトーマについては、論文中に具体的な記述はなく、また、Figureも掲載されていないのであり、査読用の付属資料に、テラトーマの画像(A2)が掲載されているからといって、捏造の根拠となるものではない。2012年論文は、「酸処理により作製されたACC(Oct4+細胞)でキメラができた」という論旨ではない。
このように、調査委員会の「捏造」判断には、何ら合理的な証拠も根拠も存在しない。小保方がどのような行為を行ったのかについての事実認定もなされていない。
(4)再調査不開始判断の誤り
・不服申立書等により上記の認定判断の誤りが指摘されたのであるから、「再調査の必要あり」と判断すべきであったが、調査委員会は、不正を認定した報告書と異なる論拠により、独自に捏造にあたるとしたが、これはことごとく誤った推論に基づいており、証拠に基づかない不合理的な判断である。
・パワーポイント資料について、「委員会の認定に矛盾するものではない」と述べる。しかし、問題は、本報告書において、「切り貼り操作」から捏造を推定したことにある。画像A2は、パワーポイント資料に由来し、学位論文を切り貼りしたものではないと認定したのであれば、本報告書の論拠の重要な部分が根拠を欠く。
・データ管理の不十分が画像の取り違えが生じたことについては、小保方もこれを認めているが、「このような管理方法では、ある実験のデータが他の実験のデータとして使用されるおそれがあることは明らかであり、そのおそれがあることを認識していないということは考えられない。」とか、「こうしたおそれがあることを無視した行為であると判断せざるをえない」との判断は、短絡的かつ誇張に過ぎ、常識を逸脱している。
・2012年論文も、Cell誌、Science誌への投稿論文も、キメラを中心とした論文であり、しかも、それはストレス処理によるOct4+細胞が前提となっている。たしかに、小保方は、これらの論文投稿時に、元画像を確認していたならば、画像を取り違えなかったのに、確認を怠ったことは事実である。しかし、「個別に特定がされていないアセンブリしたデータをそのまま使用することの危険性を全く無視したものであると言わざるを得ない。」との判断は、単なる決めつけである。小保方は危険性を認識することなく、元画像を確認することなく画像を掲載したのである。そもそも、「危険性を全く無視した」とは、いかなる状況であるのか、理解できない。危険性を認識していたなら、間違いが生じないように確認するのが当然の事理である。画像取り違えの危険を知りながら、あえて、画像を確認しないという心理状態が、現実に存在するのであろうか。経験則上、想定できない。
・また、「厳密には、学位論文で作られたのはトリチュレーションで作られた幹細胞でNatureのほうでは酸処理で作られた幹細胞である。私にとっては両方ともSTAP細胞でしたが、厳密には違うと思います。」という小保方の供述から、「論文に記載した条件と異なる条件の実験で得られたデータであったとしてもそのデータを使用することを認容している。」に結びつくわけではないのに、強引に結びつけている。また、「ずっと何度もやっていた実験で、いつも同様の結果が出ていたので、脾臓細胞由来と骨髄細胞由来を同じように取り扱ってよいという気持ちがあったわけではないが、データが正しい現象だと安心しきってそのまま使ったと思う。」との小保方の供述は、「脾臓細胞由来の実験を何度もやって、いつも同じ結果が出ており、脾臓細胞由来のデータだと信じ、安心して使った」という趣旨と理解するのが自然であり、これをもって、「論文に記載した条件と異なる条件の実験で得られたデータであったとしてもそのデータを使用することを認容している。」と断定することはできないのに、強引に断定している。
・そもそも、このヒアリングは、小保方が極めて体調不良な際に行っており、供述内容が正確な事実を述べているともいえない。本来は、これら供述が、小保方の言い分と矛盾すると理解したならば、真偽を確かめるために再調査をすべきであるにも関わらず、揚げ足をとった形で再調査不開始としたものである。
・これらが示すように、再調査不開始の判断は、ことごとく誤った推論に基づいており、証拠に基づかない不合理的な認定である。調査委員会のこの判断は、結局のところ、<1>データ管理が不十分であった、<2>データの使用についてアセンブリした状態のまま使用し、オリジナルデータを確認しなかった、<3>上記<1><2>の状況からすると実験条件の異なる画像データを使用する危険性があった、<4>小保方は、その危険を認識していたはずだ、<5>それゆえ、実験条件の異なる画像データを使用する危険性があることを認識しながら、異なる画像を掲載したのであるから捏造にあたる、ということに尽きる。しかし、<1><2><3>が認められるとしても、そこから<4><5>が導かれるわけではない。
(5)悪意認定の誤り
調査委員会による悪意認定は、その判断枠組み自体が誤っているが、さらに、「実験条件の異なるデータを使用する危険の認識」の有無についても、その事実認定を誤っている。
調査委員会は、安直に、<1>データ管理が不十分であった、<2>データの使用についてアセンブリした状態のまま使用し、オリジナルデータを確認しなかった、上記<1><2>の状況からすると実験条件の異なる画像データを使用する危険性があった、<4>小保方は、その危険を認識していたはずだ、と認定する。
しかし、そもそも、実験条件の異なる画像データを使用する危険性を認識していたならば、データを確認していたはずである。どのような動機があって、異なる画像データを使用する危険性を認識しながら、データを確認することなく、異なるデータを掲載するのか不可思議というほかない。
(6)特殊事情の考慮の無視
小保方は、2013年1月2月当時、自身の理研への移籍手続、若山研が移転するための準備が重なり、その合間を縫って、論文2報を執筆した。しかし、、実験指導をしていた若山氏(キメラや幹細胞の実験は若山氏が担当)が山梨大学に移る前に、若山氏による論文のチェックを受ける必要があるなどの状況もあった。画像の取り違えは、このような事情のもとで生じたが、上記の状況からして、不自然であると断ずることはできない。
この点について、調査委員会は、画像の差し替えは2012年論文の投稿時から認識されるべきという。しかし、2012年論文、Cell誌投稿論文、Science投稿論文は、キメラを中心にした論文であり、キメラの実験は酸処理による幹細胞を用いたものであるが、論文の全体の論旨は、「ストレス処理により作製されたOct4+細胞でキメラができた」というものであるから、これらのサプリメンタルデータに掲載されたテラトーマ画像が、酸処理によるものでないからといって、何らの齟齬はなく、画像の差し替えは2012年論文の投稿時から認識されるべきというのは、単なる決めつけであって、理由にもなっていない。差し替えの必要性は、2013年1月から生じたのであり、その時に上記の特殊事情が存在したのであるから、差し替え忘れがありうるかの検討にあたっては、この事情を考慮すべきであるのは当然である。
(7)画像B、Cの存在を調べていない点
調査委員会は画像BCについて調査していない。
本件画像取り違えは、小保方自らが発見して、2014年2月20日、自ら調査委員会に申告した。そして、2014年3月1日には、画像B、画像Cを調査委員会に提出するとともに、これらの画像の説明も行っている。
調査委員会としては、掲載すべきであったとされる画像Bが、脾臓由来の細胞を酸処理することにより得られたSTAP細胞が用いられたテラトーマの免疫染色データであることを確認すべきであったのに、これを行っていない。この点が確認されたならば、真の画像が存在する以上、存在しないものを作り上げたのはなく(捏造にあたらない)、また、真の画像が存在しているのに、故意に異なる画像を掲載することはあり得ないから、取り違えが悪意によるものではない(過失)ことは明らかになるのである。この点だけでも、調査委員会の結論は誤っている。(注:詳細説明はこの要約版では省略)
再調査不開始時に調査委員会が問題として掲げた点も、いずれも見当外れであり、画像Bは、脾臓由来のリンパ球細胞(CD45+)を酸性溶液で刺激を与えて作製したOct4+細胞を使用したテラトーマの画像であることは、理由補充書(1)及びその添付資料により実証されている。真正な画像Bが存在する以上、存在しないものを作り上げたのはなく、捏造にあたらないことは明らかであり、また、真の画像が存在しているのに、異なる画像をあえて掲載することはありえないから、画像取り違えは、小保方の単純ミスであることは明らかである。
第4 検証実験との関係について
理由補充書(2)において、「プロジェクトにおける検証実験の結果を待たずに、申立人の行為を研究不正と断ずることは許されない。」と主張した。これに対して、再調査不開始報告では、「論文1に、不服申立て者による改ざんと捏造という研究不正があったことは明らかであり、再実験の指示や許可をする必要性がある案件ではなく・・・、したがって、検証実験の結果を待つまでもないものである。」とした。
しかし、論文に記載された実験条件と同一の条件によって同一の結果を再現できたならば、被通報者は真に論文に記載された実験に成功していたことが証明されることになる。本件において、論文に記載された実験条件によりテラトーマ形成実験が成功したならば、小保方が真にテラトーマ形成実験を行い、テラトーマ画像を得ていたことが明白となる。すなわち、テラトーマ形成実験の再現がなされれば、「捏造」との疑いは晴れる。
理化学研究所では、本年4月にSTAP現象を検証するプロジェクトが立ち上げられ、現在も検証のための実験が継続されているが、その検証実験の目的の一つとして、「論文に記載された方法で再現性を検証する」ことがあげられている。そうであれば、再調査を開始したうえ、上記のプロジェクトにおける検証実験の結果を待って、小保方の研究不正の有無についての本報告書の判断が見直されるべきは当然であるにもかかわらず、「検証実験の結果を待つまでもない」と決めつけて、これを拒否した調査委員会の判断は、あまりにも不合理である。
第5 手続違背について
1 弁明の機会を与えられなかったこと。
2 調査委員会の構成
調査委員会の調査報告書に対して不服申立がなされた場合には、不服申立てに対して再調査を開始するか否かの審査を含め、その後の審査及び再調査のための調査委員会は、当初の調査委員会の委員以外の者によって構成されるべきである。不服申立の対象となっている調査報告書の判断をした調査委員会は、不服申立の審査において中立の立場にあるとはいえず、手続構造から見て、公正な審査がなされるとの信頼を得ることはできない。
また、審査途中の4月24日、石井委員長の論文にも改ざんの疑いが生じ、翌日同委員長は辞任した。さらに、5月1日ころ、調査委員会の委員3名にも同様の疑義が生じたが、辞任することはなかった。同様の疑義が生じている委員が、審査に関わることになれば、自己の行為と小保方の行為とを比較して、両者の違いを際ただせることに意識が行き、その結果、審査について予断が生じることになる。このような予断をもった委員が、調査委員5名のうち3名もいたならば、およそ、公正な認定判断は期待できない。
このような、極めて特殊な状況が生じた以上、理化学研究所としては、「特段の事情」を認め、委員を交代させるべきであったにもかかわらず、調査委員会の構成を変更されないまま、時間を置かず、再調査不開始の結論を出した。このように審査結果報告は、不服申立を行っている者と同じ「研究不正」の疑いがある委員が過半数を占めた調査委員会がなした判断であり、公正な判断はおよそ期待できないことからすれば、著しい手続違反である。
3 再調査開始に関する審査手続について
ここでは、「再調査を行うか否か」がその判断の対象であり、再調査をする合理的理由があるか否かを判断するのがその役割である。ところが、調査委員会は、<1>新たな証拠を収集し、<2>それに基づいて新たな事実を認定し、<3>新たに研究不正があったか否かを判断した。これらの証拠収集、認定、判断は、この時点で行うべきものではなく、再調査で行うべきものであり、調査委員会はその権限を越える行為を行ったものというほかない。また、本報告書が不十分な証拠に基づいて根拠不十分なまま事実を認定し判断を行ったと認識したからこそ、自ら上記<1><2><3>を行っていることを考えると、むしろ「再調査をすべき」との結論となるのに、これをしなかったのは、明白な手続違背である。
第6 結び
本報告書及び審査結果報告は、研究不正の規程の解釈を誤っており、さらに、事実認定を誤っており、そのうえ、調査委員会による調査および審査の過程には、重大な手続違背がある。したがって、今回の調査委員会による結論は違法である。
以上
(弁護士ドットコム トピックス)