2014年05月26日 19:40 弁護士ドットコム
デジタルデータをもとに、複雑な立体物をつくることができる装置「3Dプリンター」。次世代のものづくりを担うと期待されているが、思わぬ利用がされて波紋を呼んでいる。3Dプリンターで作った拳銃を所持していたとして、大学職員の男性が5月上旬、銃刀法違反の疑いで神奈川県警に逮捕されたのだ。
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報道によると、男性はアメリカのウェブサイトからダウンロードした設計図をもとに、3Dプリンターで銃を製造したとされる。また、拳銃で空砲を打つ様子を動画サイト「YouTube」に投稿。さらに、改良した設計図を自分のホームページに載せていたという。
今回の事件を受け、3Dプリンターについての規制の論議も起きている。だが、そもそもデジタルデータの設計図がなければ、銃の製造はできないはずだ。こうした銃の設計図を公開することは、犯罪にあたるのだろうか。元検事の山田直子弁護士に聞いた。
「銃の設計図をネットで公開する行為は、犯罪を手助けしたとして、拳銃製造のほう助犯になる可能性がありますね」
山田弁護士はこのように指摘する。「ほう助犯」とはなんだろうか?
「刑法のほう助犯(62条)は、実行行為(犯罪行為そのもの)以外の行為で、正犯の実行行為を容易にすることを意味します。
ほう助犯の成立範囲はかなり広く、ほう助行為がなければその結果が発生しなかっただろうという因果関係までは求められません。
一般的に、正犯がほう助なしで実行した場合に比べて、犯罪結果の実現を容易にしたと評価できる場合には、ほう助犯の成立が認められる傾向にあります」
具体的には、どんな行為が「ほう助」になるのだろうか。
「たとえば、正犯者が暴行をして、被害者にケガを負わせたようなケースで、そばにいた正犯者の友人が『やってしまえ』などと言って、暴行を後押しする声援を送ったとしましょう。
この『声援』は、傷害行為に必須ではありません。しかし、声援を受けることによって、精神的に助力を得て、正犯者による傷害行為が促進されたと考えることもできます。
こうした場合も、声援を送った友人に、『ほう助犯』が成立する可能性があります」
それでは、今回のケースのように、銃の設計図を公開することは、どうだろうか。
「もしダウンロードした設計図がなければ拳銃を製造できないのであれば、その設計図を公開した行為は、拳銃製造(武器等製造法違反)のほう助となります」
つまり、銃の設計図を公開することは、犯罪となり得るわけだ。
ところで今回、設計図を公開していたのはアメリカのサイトのようだが、それでも日本の法律に違反したとして、罪を問えるのだろうか?
「刑法では、犯罪の実行行為の一部が国内で行われれば、日本法を適用できるとされています(刑法1条)。
しかし、データのアップロードの操作が国外で行われ、かつ、そのデータが国外所在のサーバに置かれていて、サイト運営も国外で行われている場合、日本国内からそのデータへアクセスできることを理由として、日本法が適用できるかどうかは不明です。
日本国内からデータにアクセスできるようにしたというだけで、実行行為の一部が国内で行われたと評価できるのか。その点については、肯定と否定、双方の見解が成り立ちえるからです」
山田弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
山田 直子(やまだ・なおこ)弁護士
奈良弁護士会所属(元検事)
事務所名:弁護士法人松柏法律事務所生駒事務所
事務所URL:http://shohaku-law.jp/