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【レースの焦点】モナコを知り尽くしたロズベルグの覚悟

2014年05月26日 13:20  AUTOSPORT web

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最大のライバル、チームメイトのハミルトンを抑えて2年連続でモナコを制したロズベルグ。ランキングも逆転して首位を奪い返した
「なんとしてでも、ルイスの勢いを止めなければならなかったから」

 僕にとって特別な勝利だと言った後、ニコ・ロズベルグは理由としてまず、ルイス・ハミルトンの連勝――マレーシア~スペインGPまでの4連勝――に、歯止めをかけたことを挙げた。その言葉の後では、モナコ2連覇も“家族や友達が見守るなかでの地元優勝"も、修飾語のように響いた。ニコにとっては、チームメイトの連勝をストップして選手権リードを取り戻したことに何より大きな意義がある。第7戦がハミルトン得意のカナダGPであることを考えると、ここで流れを絶つことは必須だった。

 予選でポールポジションを獲得すること。スタートで首位を守ること。そして作戦に失敗しないこと。オーバーテイクが困難なモナコで勝つには、この3つのステップが他の何処よりも明確になる。ロズベルグの最大の勝因は、予選でハミルトンを抑えたことだ。

 彼がQ3最後のアタックでミス、ミラボーでイエローフラッグを出したことは、予選後のパドックで大きな話題になった。多くのドライバーがラップタイムを短縮する機会を奪われ、ハミルトンが不機嫌な態度によって“第一の犠牲者"であることを強調し……それに反応するように予選終了後、スチュワードがこの件の審議に入ったためだ――ロズベルグのミスは故意ではないか?と、嫌疑がかけられたのだ。

 Q3最初のアタックで、ロズベルグはひとり1分15秒台のタイムを記録していた。2位ハミルトンは遅れること1000分の59秒。Q1~Q2も僅差で争ってきたふたりだけにQ3最後のアタックに期待が高まったのも当然で、イエローフラッグという幕切れが誰にとっても残念だったことは間違いない。ただ、ミラボーの入り口でタイヤをロックしたロズベルグが体勢を立て直そうとした後、諦めてエスケープゾーンにマシンを運んだ様子はフェアに映った――モナコで数少ない“退避路"のあるコーナーだが、素早く判断しないとそこを通り過ぎてコースを塞ぐことになる。ニコの動きは被害を最小限に留めた“ナイスプレー"にしか見えなかった。それでも、メルセデスのふたりに過度なライバル関係を期待するメディアは多い。

 Q3の前半に見事なタイムを確保していたロズベルグには、リスクを冒す権利があった。ミラボー入り口の速度計測地点で彼が記録した215.6km/hは、ハミルトンの208.0km/hより7.6km/h(!)も速かったのだから・・・大きなチャレンジである。ただしここで2番目に速かったアロンソが213.4km/hからちゃんと制動していることを考慮すると、無謀だったわけではない。トライしてミスに終わったものの、ニコの勝因は、先にトップタイムを出し、失うものはない状態で“さらに限界に近づく"権利を手に入れたこと――モナコの予選の戦い方を熟知していたことだ。

 ふたつ目の課題はスタート。ロズベルグもハミルトンもスタートダッシュはまったく同レベルで、ポールシッターが首位を守った。あとは作戦の勝負。しかし1ストップのレースでチームメイトを相手に策略をめぐらすことは難しく、2度目のセーフティカーでふたりは同時にピットイン――1年前と似た状況だった。ハミルトンは去年のようにレッドブルに先行されることこそなかったものの、これで勝利のチャンスはほとんどなくなった。

 ただし、ロズベルグにも“燃費"という不安の種があった。

 モナコのレース距離は260kmで、他より15%程度も短い。したがって100kg/レースという使用燃料の総量は問題とならないが、できるだけ少ない燃料を搭載して軽いマシンでスタートするのは2013年までのF1と同じ。40周を過ぎたあたりから、ロズベルグには何度も「燃料セーブ」の指令が飛んだ。

 マシンコントロールの大変な市街地レースで、ロズベルグはドライビングスタイルを変え、通常と違うギヤを使用し、リフト&コーストする(ブレーキングポイントより手前でスロットルを閉じる)ことが必要になった――2度のセーフティカー導入によって合計7周以上がスロー走行になったにもかかわらず、燃料がギリギリ。強いメルセデスは、作戦でもそこまで攻め込んでいたのだ。セーフティカーの可能性が80%のモナコGPとはいえ、もしも78周の間セーフティカーが入らなければメルセデスはどう対応する予定だったのか、興味深い。

 ロズベルグとハミルトンの搭載燃料は同じだったのか、あるいは――? ハミルトンの燃費に問題がなかったのは、チームメイトから1秒以内の間隔で多くの周回を走行しDRSを使用したから――?

「セーフティカー前提で搭載燃料を決めるなんて、僕らのチームではそんなリスクを冒せない」とは、メルセデスPU搭載チームのエンジニアの、金曜日の言葉。1-2位グリッドを確保したメルセデスが、そこまで“絞り込んだ"理由は? あるいは1-2位を確保したからこそ、自在にペースをコントロールできると読んだ作戦だっただろうか?

 メルセデスの強さはモナコでも変わらなかったが、ストレートの短いコースではレッドブル、とくにダニエル・リカルドが接近した。FP3、プールサイドで見ていた印象でも、彼が最速だった。予選は「最後にポルチエの出口でミスをした」と3位グリッドにも落胆したが、タバコ屋~プール入り口の中間にある速度計測地点では、リカルドがもっとも速い198.2km/hを記録。ロズベルグやハミルトンより6km/hもスピードが出ているのだから、プールの入り口がとんでもなく速く見えたのも錯覚ではない――レッドブルのダウンフォースと、実は市街地コースが一番好きだというリカルドのドライビングは、メルセデスにとっても無視できない要素であった。

 しかし、レッドブルの短所はスタートで、モナコの週末が始まる前にもリカルドが気にしていた要素。バルセロナ・テストでもチームは重点的にスタートを研究したが、レッドブル長年の不得手はまだ改善されていない。セバスチャン・ベッテルがターボのトラブルでリタイア、キミ・ライコネンがセーフティカー中のパンクチャ―(マックス・チルトンとの接触が原因)によって後退した結果、3位は取り戻したものの「3位キープだけを考えてレースしていたわけじゃない」とリカルドは強調する。タイヤの不安がなくなった終盤の20周はメルセデスより速いペースで、最後はハミルトンの0.4秒後方でゴールした。スペインGPに続いて表彰台に上がっても、もし予選でメルセデス2台に割って入ったら、スタートでポジションを落とさなかったら……と、けっして満足してはいない。

 完走14台は、開幕戦の13台以来のサバイバルレース。ルノー勢ではトロロッソの2台がエキゾースト、ベッテルはターボ、パストール・マルドナドは燃料ポンプのトラブルでリタイア。メルセデス勢でも、バルテリ・ボッタスが白煙を上げて止まった。全開率の低いモナコはエンジン的に厳しいコースではないが、他とは異なるストレスがかかることによってNA時代から意外なトラブルを生んできた。ルノーが大きな変更を行ったのはバルセロナで、MGU-Hを使わないモナコは使用方法が異なったということだが、トラブル原因の究明が急がれる。

 夜中の12時を過ぎて、ハーバーの向こうに花火が上がった。ロイヤルパーティーはすでに終了していても、ラスカスから響く大音量の音楽は途絶えない――“世界一豪華なグランプリ"の夜は、毎年こうして更けていく。勝者以外は、この騒音から遠ざかるまでストレスから解放されない。
(今宮雅子)