2014年05月26日 12:20 弁護士ドットコム
たとえ良好な関係を築いている職場の上司や同僚といえども、少々話しにくいことがある。働く女性にとって、その一つは「妊娠」の報告ではないだろうか。
【関連記事:くまのプーさんが僕らを困らせる? 著作権の保護期間「延長」が日本に与える悪影響】
インターネットのQ&Aサイトを見ると、妊娠したことを職場に報告するタイミングで悩んでいる女性は多い。妊娠がわかった後すぐに報告する人もいれば、心拍を確認できるまで、あるいは安定期になるまで黙っているという人もいるようだ。
こんなふうにタイミングが分かれるのは、職場に迷惑をかけたくなかったり、あまり知られたくなかったりといった理由が考えられるが、そもそも妊娠の報告は、いつでもよいのだろうか。たとえば、産休・育休の取得や退職を考えている場合、職場への報告時期についてのルールはあるのだろうか。高木由美子弁護士に聞いた。
「勤務先に妊娠の報告をいつまでにしなければならない、という法律はありません。しかし、労働基準法上、使用者は、妊娠中の女性に重い物の運搬や妊娠・出産の害になる作業に就かせることを禁止されています」
このように高木弁護士は説明する。つまり、重い荷物の搬入など重労働の現場で働く女性が妊娠を報告しなかった場合、使用者が知らない間に、不法行為をさせてしまう可能性があるということだ。
「ええ。ですから、このような仕事をしている女性は、妊娠が分かったらすぐ、勤務先に報告したほうが良いでしょう。
勤務先に妊娠を知らせずに、体に負担になるような業務を続けたとしましょう。万が一、事故が生じた場合に、責任の所在が不明確になります。そして、何よりも、胎児に危険がおよんでしまいます」
デスクワークの場合はどうだろうか。
「妊婦の体への負担が大きくない仕事の場合でも、なるべく早い段階で勤務先に報告するべきです。妊娠を職場に報告すれば、妊婦保護の規定の適用を受けることができます。
使用者は、妊娠した女性に、時間外労働や休日出勤、深夜労働をさせることができません。また、妊婦健診などの保健指導を受けるための時間を確保する義務もあります。こうした保護を受けるためにも、職場にきちんと報告する必要があります」
「このように早めの報告をすれば、職場で法的に保護されるというメリットがありますが、ほかにも重要な意味があります。上司や同僚との信頼関係の構築です」
たしかに、産休や育休のことを考えれば、職場としては、なるべく早めに知って、人手確保の対策を打ちたいと思うだろう。
「もし産休の直前に妊娠を報告して、上司や同僚を慌てさせてしまったら、産休や育休の後に職場に復帰する場合にも影響するでしょう。
復帰後も、子どもの病気などで遅刻したり、欠勤せざるをえないことは必ずあります。そのときは、上司や同僚に少なからず負担が生じます。そんなときでも、妊娠中から早めに妊娠報告をして、適切に引き継ぎを行って信頼を得ていれば、勤務先の理解は得やすいでしょう」
では、出産を機に退職する場合はどうだろうか。
「出産を機に退職する場合でも、余裕をもって引き継ぎをするなどの配慮がなければ、勤務先の業務に支障をきたします。そして、その人の評価が下がるだけでなく、ほかの女性従業員が妊娠した場合に、妊娠への理解が得られにくい職場環境になってしまう危険性もあります。
妊娠した女性や出産した女性が仕事を続けていくには、上司や同僚の理解や協力が不可欠です。そのためには、上司や同僚が気持ちよく協力できるよう、早めの報告、早めの引き継ぎ準備をして、周囲との信頼関係を築くように心がける必要があるでしょう」
このように高木弁護士は「早めの報告」を推奨していた。自分と赤ちゃん、そして職場のためにも、妊娠したらためらわずに報告したほうがよさそうだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
高木 由美子(たかぎ・ゆみこ)弁護士
第一東京弁護士会所属弁護士。米国・カリフォルニア州弁護士
事務所名:さつき法律事務所
事務所URL:http://www.satsukilaw.com/