第98回インディアナポリス500マイルレースの決勝が25日に開催され、イアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)がインディ500初勝利を飾った。8列目23番手からスタートした佐藤琢磨(AJフォイト)は、粘りの走りでラストスティントは5番手までポジションを上げるも、そこからスピードを上げられず19位で5度目のインディ500を終えた。
第98回インディ500は大観衆の見守る中で5月25日の午後12時20分過ぎにスタートが切られた。
スタートでは予選2番手だったジェイムズ・ヒンチクリフ(アンドレッティ・オートスポート)がトップに立ち、1周目のラップリーダーとなった。しかし、ポールポジションだったエド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)が2周目にはトップを奪い返した。
30周目には予選3番手だったウィル・パワー(チーム・ペンスキー)がトップに躍り出る。1回目のピットストップを終えた辺りで今年のレースでのトップコンテンダーが誰なのか、その顔触れは明らかになった。
フロントローからスタートしたカーペンター、ヒンチクリフ、パワーの3人。そして予選4番手だったエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)、予選6番手のマルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート)、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)、去年ルーキーながら予選も決勝も2位だったカルロス・ムニョス(アンドレッティ・オートスポート)、そしてファン・パブロ・モントーヤ(チーム・ペンスキー)といった面々だ。
しかし、パワーとモントーヤ、ふたりのペンスキードライバーが手痛いミスを冒した。4回目のピッとストップで彼らはピットレーンでのスピード違犯を取られ、ペナルティのピットドライブスルー。優勝戦線から後退した。
今年のレースはスタートから149周に渡ってイエローが一度も出されなかった。150周目に壁にヒットしたのはチャーリー・キンボール(チップ・ガナッシ)。ここからはレース展開は大きく変化し、イエローは結局トータルで4回出された。168周目にはディクソンがターン4でクラッシュ。すぐ後にジョセフ・ニューガーデン(サラ・フィッシャー・ハートマン)もマルティン・ポウルマン(AJフォイト)との接触でターン2の壁にヒットした。
175周目のリスタートでは、4番手につけていたヒンチクリフがイン側にラインを採り、2番手を走っていたカーペンターのインに並びかけた。しかし、カーペンターの外側には3番手から加速していたタウンゼント・ベル(KVレーシング)が来ていた。サンドイッチになったカーペンター、イン側から強引にパスを試みたヒンチクリフ、ふたりは接触し、2台ともが絡み合うようにしてクラッシュした。
192周目にリスタートが切られると、今度はベルが単独クラッシュ。そのままイエローでゴールになると見られた。トップはハンター-レイだった。しかし、インディカーは赤旗を出してレースを止めることを決定した。
10分と少しでコースの清掃は終了。レースは2周のウォームアップラップの後に再開された。ゴールまで残るは6周だ。
トップはハンター-レイ、追うのはカストロネベス。リスタートでハンター-レイはトップを守った。3番手につけていたチームメイト、アンドレッティがカストロネベスに並びかけてラインを封じ込めていたからだった。
しかし、そこからアンドレッティはハンター-レイとカストロネベスのふたりについて行くのが精一杯となり、優勝争いは彼を除いたふたりに絞られた。
196周目にカストロネベスはトップを奪った。もうハンター-レイに逆転は不可能かとも見えた。しかし、彼はその次の周、ターン3で豪快にパスを決めてトップに返り咲く。ここでの優勝争いは、“イン側のラインを開けたら負け”となっていて、トップに立ったドライバーたちはストレートをインべたで走った。ハンター-レイのターン3でのオーバーテイクは、相手の意表をつくものだった。
ターン4からドラフティングを使って……というアタックを予想していたカストロネベスはトップを奪われ、そこから先のハンター-レイは絶対にインを渡さない走りを続けてインディ500初優勝へと逃げ切った。ふたりのゴールでの差は僅かに0.0600秒しかなく、これはインディの98回の歴史で2番目に小さな差だった。歴代1位は1992年のレースで、アル・アンサーJr.がスコット・グッドイヤーを0.043秒差で下してゴールした時のものだ。
ハンター-レイは19番という後方グリッドからの優勝。今日のレースではリードラップでゴールしたマシンが史上最多の20台もあった。これまでの最多は昨年の19台。
アンドレッティ・オートスポートは、これでインディ500は3勝目(2005年のダン・ウェルドン、2007年のダリオ・フランキッティ)。今年のアンドレッティ勢は、マルコが3位、ムニョスが4位、NASCARドライバーでインディカーではルーキーのカート・ブッシュが6位と、クラッシュしたヒンチクリフを除く4人がトップ6でゴールするという素晴らしい成績を残した。昨年、2、3位で悔しい思いをした彼らは、エンジンをホンダに換えて今シーズンに臨み、見事に優勝を飾ったのだった。
ホンダにとっては2012年以来のインディ500優勝となった。初優勝は2005年(バディ・ライス)。2006~2011年はライバル・エンジン不在でホンダが6連勝。2012年にシボレーとロータスの参戦が始まってエンジン競争時代が再開。その初年度だった2012年にホンダはフランキッティとターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングと共に優勝。昨年はシボレーを使うトニー・カナーン(KVSHレーシング)が勝ち、今年はホンダが勝利を挙げた。
アメリカ人のインディ500ウイナーは2006年のサム・ホーニッシュJr.以来。カストロネベスは歴代トップに並ぶインディ500での4勝目を惜しくも逃し、チーム・ペンスキーもまた2006年以来となるインディ500での16勝目を寸前のところで逃した。
ビクトリー・レーンで伝統のミルクを飲んだハンター-レイは、「夢が叶った。まだ信じられないよ。チームが最高のクルマを授けてくれた。アメリカ人としてインディでの勝利を誇りに思う。ゴール前はエリオと最高のバトルを演ずることができた。グリーンでのフィニッシュになって良かった。あのようなフィニッシュで優勝ができたことは本当に嬉しい。僕らはハードに、そしてクリーンに戦った」と語った。
佐藤琢磨(AJフォイト)は19位でのゴールとなった。23番グリッドからのスタートながら、レース終盤に5番手まで順位を上げる快走を見せていた。しかし、168周目に起きたディクソンのクラッシュで飛び散った破片が、琢磨のマシンの右サイドに突き刺さってしまい、スピードとバランスを失ったマシンで琢磨は順位を下げて行くしかなかった。
(Report by Masahiko Amano / Amano e Associati)