モナコGPの予選後、ケータハムのモーターホームで行われた小林可夢偉の記者会見の最中、可夢偉の目が壁に取り付けられているテレビモニターに移った瞬間があった。モニターに映っていたのは、ポールポジションを獲得したニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)の車載映像だった。その映像を見た可夢偉は、こう言った。
「まるでトラクションコントロールが効いているかのように、スムーズに立ち上がっていくなあ。コーナーでのステアリング操作も安定しているし。僕なんかカウンターを当てまくってますから」
車載映像を見て、何か参考になることはあるか、と尋ねられた可夢偉は、「あまりにもマシンが違いすぎて、別世界の映像を見ているみたい」と言って笑った。自分たちがスーパーソフトを履いてタイムアタックをしたQ1の段階で、ソフトしか履かずにタイムアタックしたメルセデスAMGとのタイム差は、すでに2.4秒。1周4km弱のコースで、それは大きなギャップである。
実はは、チームはモナコGPにアップデートしたパーツを全く投入していなかった。モナコは全グランプリ中、最も大きなダウンフォースが必要となるサーキットであるため、どのチームも多少空気抵抗が上がっても、できるだけダウンフォースを発生させるアイテムを投入してくる。ところが、ケータハムの空力パッケージは基本的にスペインGPと同じだった。
さらにこんなことも、可夢偉は口にした。それは駝角を調整するステアリングラックが、モナコでも他のグランプリと同じだったという。モナコは他のサーキットと違って、低速かつ角度がきついコーナーがいくつもあるため、曲がりやすくするよう、通常のサーキットで使用しているステアリングラックとは異なる仕様に調整されるのである。ザウバー時代はずっとそうやってきた可夢偉にとって、他のコースとまったく同じ仕様でモナコの市街地サーキットを走るのは、これが初めてだった。だから、ミラボー、ヘアピン、シケイン、ラスカスとタイトなコーナーでは、常にロック・トウ・ロックで目一杯ステアリングを切る可夢偉の姿があった。21番手はそんな状況でのアタックだった。それでも、可夢偉は言う。
「まだ、諦めてはいません。今日だって2回目のアタックでイエローフラッグが出ていなければ、チルトンは食えたと思う。レースになれば、差は縮まると思うし、まだまだこれからです」
(尾張正博/F1速報)