「ツネニ“サムライ"デアレ!」
そうスペイン語で書かれた小さな手作りの小旗を、ハーバーサイドに置かれたフェラーリ・モーターホーム前の金網に見つけた。
雨上がりの木曜FP2終了間際、フェルナンド・アロンソ1分18秒482。今シーズンこれが4回目のフリー走行トップ奪取だ。意外に思うかもしれないが初戦から第6戦モナコGP・FP2までの17セッション中、最速タイムはルイス・ハミルトン9回、ニコ・ロズベルグ4回、アロンソは3回でダニエル・リカルドが1回。GPウイークの流れのなかで負けず嫌いアロンソは初日フリー走行で最強メルセデス勢に対抗、意地を張ってみせる。今の劣勢フェラーリF14 Tでも彼はどこかで見せ場を演じる。
1時過ぎに珍しい雹まじり大粒の雨(!)。2時からのFP2はびしょ濡れ路面のまま、しばらく誰も走ろうとしない。海沿いプール・コーナーを見下ろす“Kスタンド"に集まった「フェラーリ・クラブ」メンバーたちが、モンツァでお馴染みの大きなフラッグを皆でかざした。もう、待ちきれないと……
自分も同じ気持ちでプールサイドにいると、ラスト10分ごろからスーパーソフト・ショートラン開始。コース上は大混雑、クリアラップのスペースをどうやって創るか。アロンソとA・ステラ担当エンジニアはそれが巧い。ピットでポジション・データをチェックして指示、それに反応してアロンソが速度を調整、まさに『阿吽の呼吸』。これはラリーのドライバーとナビゲーターの関係にも似ている。
1分36秒台、1分22秒台、1分19秒台、1分30秒台、1分26秒台……ここでオープンスペースを創ったアロンソ。1分18秒482ラップのプール入口では縁石をなめるように左に斬りこみ、着地の瞬間「ツバメ返し」のごとく右に斬り返した。左リヤタイヤがススッとスライド、アロンソは予知していたように適切なカウンターステア(コントロールステアというべきか)で抑え込んだ。F14 Tのリヤサスペンションもしなやかな挙動だった。
「このラップは現状フェラーリのベストに違いない!」、迫力ある生走りで直感。するとすぐ脇の場内スピーカーからアロンソ1位1分18秒482がフランス語、ドイツ語、イタリア語で叫ばれた(モナコGPは最近3か国語場内放送)。
拍手喝采のフェラーリ・クラブ・メンバーたち。その声援は後に通過したハミルトンのメルセデス14年パワーユニット排気音量を圧倒するほど。テレビOAではなかなか分かってもらえない今年のGPサーキットの変化として、ときにはスタンド歓声がエキゾーストノートをかき消すシーンが起きる。これはこのスポーツにとっていいことではないかと僕は思う。
(今宮純)