物量作戦が通用しないことに関して
――今年からF1の開発は栃木研究所からHRDさくらに移動しましたが、F1に関わっている人数はどれくらいの規模なんでしょうか?
「皆さんが想像しているよりも相当少ないと思います。それは新しいパワーユニットになってからのF1は、今まで我々が経験してきたF1から大きく技術的な進化を遂げていて、かつてのような物量作戦で勝利を勝ち取ることができないからです。だから、開発費も過去とは比べものにならないくらい少ない。開発費というのは人件費のようなものですから。具体的な金額言えないですが、『え、こんなに少ないんですか?』っていう規模です。でも、非常にリーズナブルです。じゃ、どこで差がつくかというと、頭。いかに知恵を絞ることができるかですね」
――人が減った分、モノをたくさん作るとか?
「いやいや、そんなに作りません。新しいレギュレーションはよくできていて、次から次へと新しいモノを作らせないようになっています。よく考えてからモノを作らないと、パワーユニットとしてきちんとまとまらないんです。だから、エンジニアにとって、とてもチャレンジングで面白い。以前はたくさん作って、ベンチで回して、一番良いものを選べば良かったけれど、今はそうはいかない」
――2015年に向けて、もう考えはまとまりましたか?
「まだ完全にはまとまっていないです。スタートが遅かったので、リードタイムが全然足りない。とにかく要素が多すぎて……。実際に研究所のエンジニアたちの間では、16年っていうのが妥当ではないかという声もあったほどです。今は時間との戦いです」
今度は撤退しない
――今回のF1活動を「第4期」とは呼ばないそうですが?
「もう、出入りはしないぞと、覚悟を決めたからです。そう決めた理由は、レースを大切にしている会社が、F1を出たり入ったりしているわけにはいかないからです。F1を辞めた会社が『レースをすごく大切にしてる』って言えないじゃないですか。確かに我々は08年にF1を撤退しました。でも、あれは、あの厳しい経済状況の中で撤退という言葉を使って、抜けざるを得ない状況があった。本当に会社が潰れちゃうような状況にまできてましたから。でも、撤退してみて、改めてF1が会社の中で占める割合の大きさを実感したわけです。だから、今度入るときは、期間も決めないし、『入』はあるけど、『出』はないと、腰を据えてやると決めました」
――第3期との違いは他にありますか?
「これまでは、どちらかというとすべてホンダの中で開発も製造もやっていた部分がありますが、これからはそういうやり方は採りません。いろんなところや新しい技術とコラボしながらやっていかないと、通用しないと思います。自分たちの技術のすべてがとんがっているわけではないと思ってますから。もう、すべてのパーツをホンダが内製するという時代ではない。それはF1の世界だけでなく、量産車でも同じ。そもそも『メイド・イン・ジャパン』という言葉は気にしてはいないんです。やっぱりF1にもなると、一流のプロフェッショナルなものを集めないと勝てない。勝つためにチョイス、勝つためコラボレーションが大切なんです。ホンダかどうかより、勝つことが大切。ただ、どれを選び、どことコラボし、最終的にパワーユニットをどうまとめていくかは、我々ホンダの技術。それはこれからも変わりません」
(尾張正博/F1速報)