2014年05月20日 19:01 弁護士ドットコム
数々の名曲を生み出してきた人気ポップデュオ「CHAGE and ASKA」のメンバー、ASKA(本名:宮崎重明)容疑者が、覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕された。
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ASKA氏の逮捕を受け、所属レコード会社のユニバーサルミュージックは5月19日、「CHAGE and ASKA」と「ASKA」のソロ名義のCD・映像商品の全タイトルを出荷停止にし、回収することなどを発表した。
しかし、アーティスト本人の意向を問わず、レコード会社が一方的に出荷停止を決めてもいいのだろうか。また、レコード会社がCD等を出荷停止するとなると、今後、カラオケ店の配信などへの影響もあるのだろうか。自身も音楽事務所に所属し、作曲活動を行う高木啓成弁護士に聞いた。
「ASKA氏のようないわゆるアーティストと、ユニバーサルミュージックのようなレコード会社との間では、3年間などの期間を定めて、『専属実演家契約』が締結されます。実際には、アーティストと、その所属するプロダクションと、レコード会社との三者契約になることが一般です」
専属実演家契約とは、どんな契約だろう。
「(1)契約期間中、アーティストはそのレコード会社に専属し、CD制作などのための歌唱や演奏(実演)を行うこと
(2)その実演に関する著作権法上の権利はレコード会社に譲渡すること
(3)その代わり、レコード会社は、CDの売上に応じて、アーティストに対して『アーティスト印税』と呼ばれる対価を支払うこと
以上が一般的な内容です。
この専属実演家契約によって、CDに収録されたアーティストの実演に関する著作権法上の権利は、レコード会社が保有することになります」
このように高木弁護士は説明する。
「さらに、レコード会社は、いわゆる『原盤権』と言われる、CD原盤に関する著作権法上の権利も適正に処理しています」
レコード会社が実演の権利を持っているなら、制作したCDの原盤権も有しているのではないのだろうか。
「実は、CD原盤の制作は、レコード会社でなく、プロダクションや音楽出版社が行っていることが多いのです。この場合、レコード会社は、CD原盤に関する権利処理も必要になります。『専属実演家契約』と『CD原盤権の取得』という手続きを踏んで初めて、レコード会社は、CD原盤を使用して、自由にCDを販売することができます」
では、今回のASKA容疑者の事例はどうだろうか。
「今回、ユニバーサルミュージックのプレスリリースを読むと、『専属実演家契約』自体は終了しているようです。
それでも、ユニバーサルミュージックとの契約期間中に、ASKA氏がCD制作のためにレコーディングした実演に関する著作権法上の権利については、契約終了後も、ユニバーサルミュージックが保有しています。CD原盤に関する著作権法上の権利も適正に処理されているはずです。
ですから、ユニバーサルミュージックは、完全な権利者として、ASKA氏の実演が収録されているCDを自由に出荷停止できるのです」
それでは、カラオケ店のASKA氏の楽曲も配信停止になってしまうのだろうか。ファンはカラオケ店でASKA氏の楽曲を歌えなくなるのだろうか。
「実は、レコード会社の出荷停止や配信停止と、カラオケ店のカラオケとの間には、直接の関係はありません。カラオケの音源は、カラオケ配信会社がASKA氏の楽曲を元にカラオケを制作し、各カラオケ店舗に配信しています。
つまり、カラオケの音源は、一部を除いて、CDの音源そのものは使用されていないのです。このような理由で、ユニバーサルミュージックは、法的には、カラオケ事業者に対してカラオケの配信の停止を求めることはできません。
なお、カラオケ事業者は、ASKA氏の楽曲を使用しているため、楽曲の著作権を管理しているJASRACに対しては、著作権使用料を支払っています」
今回の騒動で、CDは買えなくなってしまうが、だからといって、カラオケで「CHAGE and ASKA」の曲が歌えなくなるわけではないようだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
高木 啓成(たかき・ひろのり)弁護士
福岡県出身。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。ミュージシャンやマンガ家の代理人などのエンターテイメント法務のほか、IT関係、男女関係などの法律問題を扱う。音楽事務所に所属し作曲活動を行うほか、ロックドラマー、クラブDJとしても活動している。Twitterアカウント @hirock_n
SoundCloud URL: http://soundcloud.com/hirock_n
事務所名:アクシアム法律事務所
事務所URL:http://www.axiomlawoffice.com/