激しい攻防を制した谷口信輝(#82)が連勝を飾った。 GAZOO Racing 86/BRZ RACEの第3戦が富士スピードウェイを舞台に5月17~18日に開催され、谷口信輝(KTMS 86)がポール・トゥ・ウィンを達成。2連勝を飾るとともに、43歳の誕生日を自ら祝うこととなった。2戦連続の3位からひとつ順位を青木孝行(ケーエムエスADVAN86RC)が上げ、3位はたしろじゅん(いとうLCクリニック86)が獲得した。
第3戦も84台のエントリーを集めた86/BRZレース。そのため予選は2組に分けられているが、その分け方が安易すぎるように思えてならない。単純にゼッケン順に1組、2組と繰り返しているのだ。「勝負は時の運」とも確かに言うが、今回は明らかに1組に有力どころが集中し、それが原因で決勝の混乱を生み出すことにもなっている。もっと緻密に、たとえば前回の順位、あるいはランキングで分けてもいいのではないか。極端に言えば、出走順すらそういった要素で決めてしまってもいい。まさにスーパーFJなど一部のシリーズではあらかじめ定めてもいて、台数が多いからこそ緻密に定める必要があるように思われた。
そして、もうひとつの問題がタイヤ。メーカーごとの性能差は、これは企業努力だから目を瞑ろう。だが、新品を削らずに予選に挑むという規定があるにもかかわらず、明らかに削ってきた車両が15台程度車検で確認されたという。だが、それに対するおとがめは一切なし。もちろん「前回も使った中古だから」と言われれば、返す言葉はないだろう。だが、これだけ競争が激しくなって、上位を目指そうと言うものが中古で挑むとは到底思えず。この週末は気温が夏日に相当し、タイヤの負担は相当大きい。タイヤを削ればブロックが歪まず、気温が低い頃より遥かに有利になるのは明らかなのだから。このあたりの基準も明確にするべきだ。
さて苦言はここまでにして、予選では驚速タイムが叩き出された。金曜日に行われた専有走行では、谷口と初登場ながら8Beat初代チャンピオンにして富士育ちのたしろだけが2分6秒台、それもようやく乗せるレベルだったのに、そこから1秒上がってしまったのだ。5秒988を新たなレコードタイムとしたのは、もちろん谷口だ。
「5秒なんて自分でも出ると思ってなかった! たぶんコンディションに恵まれたんだと思う。スーパーフォーミュラが走った後で、そういうのも利用できたのかも」と谷口。同じ1組の2番手には、やはり初登場の大嶋和也(BRIDE ADVAN86)がつけ、「さすが」と思わせた一方で、走路外走行の当該タイムが削除され、3番手に後退。羽根幸浩(メタルラボSPEX K1 86)がひとつ順位を上げる。
ちなみに従来のレコードタイムからは2秒3もの短縮が果たされ、1組では更新してもなお2台がBレースへ。2組が走行する頃には日差しも強くなり、幾分コンディションも悪化していたとはいえ、更新できたのは18台。「かなり厳しかった……」と語るトップの青木ですら6秒654に留まり、たしろが僅差で続いていた。
決勝レースは見る側にとっては絶好のレース日和となったが、走る側にはエアコンもつけず、窓も閉め切っての走行だから、この時期としてはかなり過酷な状況であるのは明らかだ。「スタートはまずまず。隣が青木だから、変なことをしでかしてくる心配はないし」という谷口がトップで1コーナーに飛び込み、青木には羽根が迫るがしっかりガードを固めて逆転を許さず。1周目終了時点でのオーダーは谷口、青木、羽根、たしろ、大嶋。この5台が早々と後続を引き離す。このトップ争いはいたってクリーンであった。大嶋が2周目の最終コーナーでたしろを抜き、3周目のヘアピンで抜き返されるシーンなど圧巻の一言。その後はこう着状態が続くも、谷口と青木が次第に逃げていくように。
そんな中、ラスト3周になって突然谷口のペースが鈍る。「原因はなんでだか分からないけど、急に遅くなった。たぶん、先頭を走っているから水温じゃないと思うけど。正直こりゃヤバいと思った」と谷口。それまでの1秒半の差はあっという間に縮まり、青木が急接近するが「後ろにつくと水温が上がっちゃう」とスリップストリームを使うまでには至らず、谷口は辛くも逃げ切りを果たすことに。「バースデーウィンになりました、ありがとうございます。43歳になりました」と谷口。3位は最終ラップのストレートで羽根をかわした、たしろが獲得。
さて、トップ争いの後方では……。これはもはや熾烈というレベルを超えて、混乱にも等しい状態であった。何しろタイヤの性能差が著しく、また組分けの運、不運で本来その位置にいるべきでないドライバーが良くも悪くも混在したのがその原因だ。9列目スタートながら、その混乱をすり抜け6位でゴールの織戸学(TR86クローズEXPLODE)は、まさに賞賛に値するものの、それより後方で無傷だった車両がいったいどれだけいたことだろう。ダメージが大きく、次回の出場を断念した車両もあると聞き、そのうちの1台には某スーパースターが乗るはずだったから、ぶつかってきたドライバーはなんと罪作りなことをしたことか!
(はた☆なおゆき)