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「今度、俺の家の引越しを手伝え」 こんな上司の命令に部下は従わないといけないの?

2014年05月18日 13:00  弁護士ドットコム

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会社において上司の命令は絶対・・・かどうかはわからないが、たいていの部下は普段、おとなしく従っているのではないだろうか。部下がなんでも言うことを聞いていると、なかには増長する上司もいるようだ。


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4月には、北海道に駐屯する陸上自衛隊の3等陸佐が、部下の隊員のべ40人以上に自宅敷地の木の伐採作業を強制的に手伝わせたというニュースが報じられた。報道によると、この3等陸佐は停職33日の懲戒処分になったという。



一般企業でも、上司から自宅の引越しを手伝うよう頼まれることがあるかもしれない。休日をつぶしてまで、そんな上司の要請に従わなければいけないのだろうか。労働問題にくわしい古金千明弁護士に聞いた。



●上司の引越しの手伝いをする義務はない


「会社が従業員に対して指示・命令できるのは、業務に関連する行為のみです。業務と関係のない私的な行為については、会社が従業員に業務命令を出すことはできません。



もちろん、自宅の引越しは会社の業務と関係ありません。もし、上司が自宅の引越し手伝いを部下に頼んだとしても、部下には従う義務はありません」



古金弁護士はこう断定する。しかし、部下としては、従う義務がなくても、頼まれたら断りにくいのが現実だ。



「もし、上司が引越しを手伝うことを事実上強要したり、引越しを手伝わないことを理由に嫌がらせをしてきた場合は、公私混同を禁ずる会社の服務規定に違反したとして懲戒の対象となったり、パワーハラスメント等の違法行為となる場合もあるでしょう」



●手伝いの際にけがをしても労災保険の対象外


もし、上司の依頼を断り切れなくて手伝うことになった場合に、現場でけがをしてしまったときは、業務災害として労災保険の対象になるのだろうか。



「原則として、労災保険の対象にはなりません。業務災害の要件のひとつに、会社の業務遂行中のけがであることが必要とされています。上司の私用の手伝いは会社の業務遂行中とはいえず、私的な行為中のけがとなります。私的な行為でけがをした場合には、けがの治療費は自己負担となってしまいます」



昔は、部下が上司の引越しを手伝うということは珍しくなかったようだが・・・。



「高度成長期はそうだったかもしれませんが、時代は変わりました。もちろん、会社の人間関係を円満にするために上司の引越の手伝いをするかどうか、または、部下が上司とプライベートでもつきあうかどうかは、法律が決めるものではなく、個人の判断に委ねられる問題です。



ただ、部下としては、依頼を引き受ける前に、引越しの手伝いでけがをしても、原則として労災保険の対象とはならないことも頭の片隅に入れておいたほうがよいでしょう。上司のほうも、手伝いを強要してしまうと、後で、会社の服務規定違反や、パワーハラスメントとして責任を問われる可能性があることを、あらかじめ留意しておいたほうがよいでしょう」



古金弁護士はこうアドバイスしていた。もともとプライベートでも仲の良い関係ならともかく、そうではない関係で手伝いを頼んだり、手伝ったりするのは、上司も部下も、避けたほうが賢明といえそうだ。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
古金 千明(ふるがね・ちあき)弁護士
天水綜合法律事務所・代表弁護士。個人から法人(IPOを目指すベンチャー企業・中小企業、上場企業)に対するリーガルサービスを提供している。取扱分野は、企業法務、労働問題、M&A、倒産・事業再生、一般民事(離婚・男女関係含む)。
事務所名:天水綜合法律事務所