2014年05月17日 12:40 弁護士ドットコム
警察・検察の取り調べを録音・録画する「取り調べの可視化」。それをどう実現するかをめぐって、いま激論が交わされている。法務省はこのほど、有識者でつくる法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」に、たたき台となる2つの事務局試案(A案・B案)を示した。
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どちらの案も、「取り調べの全過程を録音・録画する」としている一方で、対象となる取り調べの範囲を限定している。2案の違いは、その対象となる取り調べの範囲だ。
まずA案は、可視化するのを「裁判員裁判の対象になる事件」だけに限定している。一方、B案はそれに加えて、「被疑者が逮捕・勾留された事件」の「検察による取り調べ」も、可視化の対象としている。
つまり、どちらの案によっても、裁判員裁判の対象外の事件では、「警察による」取り調べが可視化されないことになる。今回の試案をどのように考えるべきか。小笠原基也弁護士に聞いた。
「裁判員裁判の対象事件しか可視化しないA案は、とうてい『取り調べの可視化』と言える内容ではありません」
このように小笠原弁護士は、A案を批判する。
「そもそも、裁判員裁判の対象となる事件は、全事件のたった2%弱にすぎません。一方で、可視化議論のきっかけとなった郵便不正事件をはじめ、志布志事件(選挙法違反)も氷見事件(強姦)も、最近話題の痴漢えん罪事件なども、裁判員裁判の対象にはならない事件です」
では、B案についてはどうだろうか。
「自白強要の多くは、警察段階の取り調べで行われています。自白が任意に行われたかどうか、つまり自白の任意性を争う事件の多くが、『警察官の取り調べ』を問題としています。
したがって、警察の取り調べを可視化の対象外とするB案も、極めて不十分だといわざるをえません」
つまり、A案もB案もダメだというのが、小笠原弁護士の見解だ。
この事務局案は、他にも問題点があるという。
「捜査側が録音・録画しなくてもいい『例外ケース』について、抽象的な規定がされている点も問題です。もしルールが恣意的に運用されれば、例外が際限なく広がる恐れがあります。そうなれば、可視化の目的は果たされません。
また、取り調べの可視化について、『検察官が自白の任意性を証明する手段』という側面が、強調されすぎている点も疑問です」
小笠原弁護士はこのように指摘したうえで、「度重なる検察・警察の不祥事や冤罪事件を受けて、取り調べの適正化を図るために立ち上がった特別部会のはずですが、この事務局試案は中途半端な内容になってしまっています。これでは録音録画の運用しだいで、可視化どころか、かえって冤罪(えんざい)を増やしかねません」と話していた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
小笠原 基也(おがさわら・もとや)弁護士
岩手弁護士会・刑事弁護委員会 委員、日本弁護士連合会・刑事法制委員会 委員
事務所名:もりおか法律事務所
事務所URL:http://www.bengo4.com/search/116136/