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コンサートで何度も「演奏中断」したピアニスト――聴衆は「払い戻し」を要求できる?

2014年05月14日 15:20  弁護士ドットコム

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著名なジャズピアニストのキース・ジャレットさんが、5月3日に大阪で開いたソロ・コンサートで、演奏を何度も中断したとして話題になっている。報道によると、ジャレットさんは観客の咳や物音で「集中力をそがれた」と話したという。


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コンサートは予定終了時刻の21時すぎまで続いたが、演奏の中断が3、4回あり、最長で10分に及んだ。2700ある客席はほぼ満席だったそうだが、度重なる中断を不満に思った聴衆のうち数十人は翌日未明まで会場に残り、チケットの払い戻しを求めて抗議したという。



コンサートに行ったという人たちの声をネットでひろってみると、「(咳は)出てしまうものだろ」「金払った分は仕事しろ!」といった抗議もあったが、観客のマナーが悪かったという指摘も少なくなかった。



今回払い戻しは行われていないようだが、一般論として、演奏者が「集中できない」としてコンサートを中途半端な形で終えたら、観客は払い戻しを求めることができるのだろうか。それとも、「ライブ演奏は水ものだから」と、納得してあきらめるしかないのだろうか。消費者問題にくわしい岡田崇弁護士に聞いた。



●「チケットに書かれていること」が重要


「コンサートチケットの法的な位置づけは、チケットを発行した会社の『義務』と、チケットを持っている人の『権利』の双方を記したものだと考えられます。



チケット発行元は、チケットの記載どおりにコンサートを提供する義務がありますし、チケットの所持人はそれを視聴する権利を持っています。



そう考えると、まずは、チケットにどのような内容が記載されているのかが問題となります」



岡田弁護士はこう述べる。ただ、ふつうコンサートのチケットに書いてあるのは、演奏者や日時、会場など、ごく限られた情報だけの気がするが・・・。



「そうですね。もし、チケットに記載されているのが、日付と開始時間、会場、演者、金額程度であれば、所定の時間にコンサートが開始された以上、よほどのことがない限り、チケットの発行元の義務は尽くされているといえるでしょう」



では、どんなことが書かれていれば、話が違ってくるのだろうか。



「たとえば、チケットに演目等が具体的に記載されていれば、話は別ですね。



コンサート当日に、記載されている演目の一部が演奏されなかった、あるいは急に演目が変更されたという場合には、原則として『債務不履行』となり、観客は相当分の払い戻しを請求できると考えます」



チケットに書いたことは、しっかりと守る必要があるということだろう。



●チケット発行元が「道義的な責任」をとる場合もある


それでは、チケットに書いていなければ、演奏者は何をしてもいいのだろうか。



「いいえ、たとえば、チケット購入時に広告・宣伝で受けた説明と、実際のコンサートの内容が大きく異なっていた場合も、法的に返金を要求できる可能性があります。



この場合、消費者契約法に基づく取消、もしくは債務不履行に基づいて、チケットの販売者にチケット代金の返還を要求するということになるでしょう」



ここまでの話を聞く限りだと、チケットや広告・宣伝と、実際に行われた内容が、明確に違う場合を除いて、払い戻しを法的に要求するのは難しいといえそうだが・・・。



岡田弁護士は「法的にはそうですね」と断りをいれつつも、チケット発行元の道義的責任について、次のように話していた。



「ただ、行われたコンサートの中身が、観客を満足させることが到底できない内容だったとすれば、発行元は道義的な責任をとって、チケットを払い戻すべきでしょう。実際、演目変更の場合など、本来払い戻す義務がない場合でも、払い戻しに応じている場合もあるようですよ」


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
岡田 崇(おかだ・たかし)弁護士
大阪弁護士会・消費者保護委員会委員(平成18年・19年度副委員長)、日本弁護士連合会・消費者問題対策委員会幹事、関西大学法科大学院実務家教員(消費者取引法)
事務所名:岡田崇法律事務所
事務所URL:http://www.okadalaw.jp