トップへ

ラーメン屋で満腹になったら「財布がない!」 だまって帰ったら何罪になる?

2014年05月12日 20:10  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

飲食店で食べ終わったあと「財布がない!」――こうした経験をしたことがある人は少なくないはずだ。東京都内に住むライターのKさんも先日、渋谷のラーメン屋で替え玉をたいらげて満腹になり「さあ帰ろう」と思ったとき、ふと財布がないことに気づいた。


【関連記事:もし痴漢に間違われたら「駅事務室には行くな」 弁護士が教える実践的「防御法」】



かばんの中に電子マネーのカードとクレジットカードが入っていたが、その店の支払いは現金のみ。Kさんは店員に必死に説明して、なんとかお金をとりに帰らせてもらうことができた。



うっかりしていたとはいえ、「お金を持っていない」のに飲食してしまったことに変わりはない。いわゆる「無銭飲食」にあたる気もするが、罪に問われてしまうことはないのだろうか? 中村憲昭弁護士に聞いた。



●「詐欺罪」になる可能性がある


「今回のケースで問題となるのは、詐欺罪です。詐欺とは、人をだまして物や財産上の利益を得ることです。いわゆる『食い逃げ』は、この詐欺罪にあたります」



中村弁護士はこう説明する。



「店で食事を注文すれば、通常、代金を支払う意思があるとみなされます。最初から支払う意思がないのに、それを隠して注文すれば『だます』ことになり、その時点で詐欺罪になります」



では、後から「財布がない」ことに気づいた場合は、どうだろうか。



「それは話が別です。注文した時点では支払う意思があったのですから、その時点では詐欺罪は成立しません。 



詐欺罪の場合、故意がなければ——言い換えると、『詐欺という犯罪』を犯す意思がなければ、成立しないのです」



財布を忘れた場合は、犯罪にならないから安心していいということ?



「いえ、注意しなければならない点はあります。食後、レジを通る際に、支払いを免れるために嘘をつけば、その時点で詐欺罪が成立します。人をだまして『代金支払いを免れる』という利益を得たことになるからです。



たとえば、『ちょっとトイレに行ってくる』とか『銀行からお金を下ろしてきます』と店員に伝え、そのまま立ち去れば、詐欺の実行行為になります」



●犯罪が成立しなくても、民事上の責任はある


ということは、結局、支払いをしなければ、必ず詐欺罪になる?



「非常に例外的なケースで、詐欺罪にならない場合もあります。それは食事を終えた後で財布を忘れたことに気づいたが、その後、誰にも会わずに店から立ち去ることができた場合です。



注文時には故意がないので、詐欺は成立しません。また、店を出る時点でも、人をだましていないので、詐欺の実行行為がないということになるのです」



それができれば、逃げ得になるということか?



「いいえ、逃げ得になると考えないほうがいいですね。食事をして代金を払わなければ、店から食い逃げだと疑われ、警察に通報されるかもしれません。



そうなれば、もし最終的に犯罪が成立しなくても、店や警察への弁明のために貴重な時間を費やすことになりますし、信用も失います。これはバカバカしいことです。



また、立ち去れたからといって、民事上の支払い義務が消えるわけではありません」



正直に店側に説明し、誠意をもって対応することが最善ということか。しかし、それ以前に財布を忘れることがないよう、日ごろから注意したいものだ。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
中村 憲昭(なかむら・のりあき)弁護士
保険会社の代理人として交通事故案件を手掛ける。裁判員裁判をはじめ刑事事件も多数。そのほか、離婚・相続、労働事件、医療関連訴訟なども積極的に扱う。
事務所名:中村憲昭法律事務所
事務所URL:http://www.nakanorilawoffice.com/