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隣室から聞こえる「歌い手」の大きな声――マンション「騒音トラブル」解決のコツは?

2014年05月11日 13:50  弁護士ドットコム

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一日が終わろうとしている深夜、自宅でくつろいでいると、隣の部屋からテレビや洗濯機の音が聞こえてくる。集合住宅につきものの「音漏れ」問題だが、その程度であれば、まだ許せるだろう。


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しかし、それが「大きな歌声」だったら、どうだろうか。録音・編曲がパソコンで簡単にできるいま、自分の歌を録音し、動画サイトに投稿するひとが増えている。もし、そんな趣味を持つ「歌い手」が隣の部屋に住んでいて、夜な夜な大声で歌っていたら・・・。



文句を言いたいが、相手は素性も知らない赤の他人。下手な刺激は避けたいところだ。こうした集合住宅の騒音トラブルは、どのように解決すればいいのだろうか。できるだけ穏便に済ませるためのコツはあるのだろうか。不動産関連の法律問題にくわしい瀬戸仲男弁護士に聞いた。



●騒音問題の5つのポイント


「集合住宅での騒音は、『生活妨害』の一種とされています」



このように瀬戸弁護士話す。マンションなどでの騒音は、他人の生活を妨害することがあるということだろう。「ただし」と言って、次のように続ける。



「生活妨害行為は、すべてが違法とみなされるわけではありません。社会生活を営むうえで、お互いの接触を避けることはできないからです。



裁判所は『客観的にみて受忍すべき限度を超えた場合に初めて違法性が認められる』という考え方をしています。これを『受忍限度論』と言います」



どうやら「受忍すべき限度」を超えているかどうかが問題のようだ。もし超えてしまったら、どうすればいいのか。



「違法な妨害行為に対する救済手段としては、過去に起きた妨害に関しては『損害賠償請求』、将来起こりうる妨害に関しては『差止請求』という方法が用意されています」



どんな場合に、限度を超えたことになる?



「騒音が『受忍限度を超えたかどうか』を判断するのは裁判官です。



主に考慮されるのは、次のような事情です。



(1)公的規制上の数値との関係


(2)騒音の発生時間帯


(3)騒音の性質、程度


(4)被害を受ける側の状況


(5)被害防止措置の有無・内容」



●我慢できない場合は、裁判に訴える手もあるが・・・


こうした点に照らして、もし我慢できないという場合は、相手を訴えることもできる?



「そうですね。こういった諸要素を考慮したうえで、妨害を行っている人に対して強い態度で臨む場合には、仮処分や調停の申立をして、最終的には訴訟を提起することになるでしょう。



しかし、過去の裁判例においては、『受忍すべき限度を超えていない』という理由で請求棄却になった事例も少なくありません。



よくあるのが、フローリングの床を撤去してカーペットなどに変更しろという請求ですが、こういった請求はなかなか認められませんので、ご注意ください」



瀬戸弁護士はこう釘を刺す。それに、裁判を起こすとなると、時間も費用もかかりそうだ。



「そうですね。まずは話し合いなどを通じて解決することになるでしょうから、その方法もいくつか考えてみましょう。



話し合いは、自分自身での交渉が基本ですが、間にワンクッション入れるのも良い方法です。



たとえば、賃貸マンションなら、管理会社を通じて連絡するのがいいですね。また、賃貸人(大家さん)に頼む方法もあります」



面倒な交渉ごとを、大家がやってくれるものなのだろうか?



「賃貸人は、賃借人が目的物を円満に使用できるようにする義務を負っています。生活妨害が発生している場合には、その『妨害行為を取り除く義務』が、賃貸人に課されていると考えることも可能です。



実際に、裁判では、家主が隣室賃借人の生活妨害行為を阻止しなかった事例で、家主に対する損害賠償請求が認められたケースもあります」



大家には、貸主としての責任があるということだろう。隣の部屋の騒音に困ったら、まず、管理会社や大家に相談してみるのがよさそうだ。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
瀬戸 仲男(せと・なかお)弁護士
アルティ法律事務所代表弁護士。大学卒業後、不動産会社営業勤務。弁護士に転身後、不動産・建築その他様々な案件に精力的に取り組む。我が日本国の伝統・文化をこよなく愛する下町生まれの江戸っ子。
事務所名:アルティ法律事務所
事務所URL:http://www.arty-law.com/