Q1開始直後に、パストール・マルドナド(ロータス)がクラッシュしノータイムに終わったため、最下位は免れたものの、小林可夢偉が記録した1分30秒375はタイムアタックをした者の中ではもっとも遅いタイムだった。それはすなわち、今シーズン、初めて予選でチームメイトのマーカス・エリクソンに負けたことを意味していた。
それにしても、腑に落ちない予選だった。予選前に行われたフリー走行3回目では、可夢偉はエリクソンよりもコンマ8秒速かった。ところが、予選では100分の6秒差で先を越されてしまった。その理由を尋ねると、可夢偉は次のように語った。
「金曜日から変更したセッティングを、予選前に再び元に戻したんです。でも、状況は好転しなかった。やれることはやったけど、単純にクルマが遅いということです。チームメイトに負けたのは、自分のタイムアタックの時にビアンキが飛び出して、渋滞になってしまったから」
チーム関係者によれば、金曜日のフリー走行でリヤのグリップ不足に苦しめられた可夢偉は、金曜日の夜に予選に向け、空力パッケージを一新させたという。今回、スペインGPに持ち込んだアップデートパーツを外し、中国GPまで使用していた旧バーションに戻した。中国GPではマルシアと同じレベルだったのに、アップデートパーツを使用したスペインGPではその差を縮めるどころか、引き離されたからである。
ところが、フリー走行3回目で収集した旧バーションの走行データを比較すると、わずかながらアップデートした空力パッケージの方がダウンフォース量は出ているという評価を下し、予選前に可夢偉の空力パッケージを再び金曜日のパッケージに戻したのである。ただ、金曜日のフリー走行2回目で、可夢偉はニュータイヤを履いたアタック直前に、リヤタイヤのグリップを失ってラインを外し、まともなアタックができていなかった。つまり、アップデートの空力パッケージでのタイムアタックは土曜日のQ1が最初だったのである。
そんな事情があったことを、可夢偉はひと言も言わなかった。なぜなら、可夢偉が戦うべき相手は、チームでもなければ、チームメイトでもなく、ライバルチーム。しかも、それはマルシアではなく、もっと上のチームなのである。
「そのために、やらなければならないことは、まだまだたくさんある」という可夢偉にとって、チームメイトに負けたことや、チームが下した判断にケチをつけることは本望ではない。スペインGPの予選21位には、数字以上の深い意味が隠されている。
(尾張正博/F1速報)