「泣きそうになるくらい、最悪の状態だった」と、初日のフリー走行を走った可夢偉は、珍しく弱音を吐いた。
「とにかく、タイヤからきちんとグリップ力を出すことができない。コーナーで滑りまくるから、タイヤの表面は熱くなるけど、中を温めることができず、さらにグリップしない。他のチームのドライバーも作動温度領域に入れるのが難しいって言っているぐらいだから、自分たちは完全に入っていない状態ですね」
今回、ケータハムはヨーロッパラウンド開幕戦となるスペインGPに向けて、いくつかのアップグレードを行った。
「あまり大きな変更ではありませんが、フロントウイングとリヤウイング、そしてフロアが新しくなったと聞いています。でも、今日はそのアップグレードがきちんと機能しているかどうかを確認できるレベルにないほど、厳しい走行だった。データ的には一応、少しは向上しているんですが……」
バルセロナでケータハムが苦しい状況に陥ったのには、理由がある。ひとつは、ケータハムのマシンCT05が高速コーナーを不得意としているという点だ。「マレーシアGPでも苦しかったのは、そのためだった」と可夢偉は分析している。もうひとつの理由は、ピレリのタイヤのセレクション。今回ピレリがスペインGPに持ち込んだタイヤはハードとミディアム。4種類の中からもっとも高い2種類の組み合わせを選択したわけだ。
「まるで雨の中を走っている感じ。ミディアムのニュータイヤを履いて、タイムアタックに入ろうと最終コーナーでアクセルを踏んでいったら、リヤのグリップが突然なくなって、イン側に巻き込んだくらい。一番グリップするオプション(今回の場合はミディアム)のニュータイヤでそんな状況だから、もう怖くて全然アクセルを踏めない」と語った可夢偉は、最後に「今晩はスペインの生ハムを食べることができないくらい、忙しくなりそう」とポツリ。
「だって、さっき終わったGP2の予選で一番最後のクルマより遅いんだから」
GP2の最下位は1分31秒558だから、1分31秒338の可夢偉は正確にはGP2の最下位よりは遅くはなかった。しかしそれでも、26人中25番手のタイムが1分31秒336であり、可夢偉よりコンマ2秒速かった……。怒りたくなる気持ちも理解できる。マルシャやザウバーとの戦いを目指してスペインGPにやってきたはずのケータハムだったが、今の可夢偉からは、彼らの姿は見えなくなってしまった。