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【F1プレビュー】事件で感じるスペインの“らしさ"

2014年05月08日 21:00  AUTOSPORT web

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スペインGPでニューシャシーを投入するベッテル。メルセデスに対抗する前に、チームメイト対決も注目となる
バルセロナに到着してすぐ、とてもスペインらしい“事件"が起こった。「真新しいクルマですよ」と笑顔で渡されたレンタカーの……エマージェンシーランプが早々に点灯。よくあるセンサーの誤作動かと楽観していたら、クルマの姿勢が斜めになると必ず警告音が鳴って、冷却水の赤い表示がピカピカする。ガソリンスタンドに行って見てみると、冷却水がほとんど入っていなかった。

 頻繁とは言わないけれど、バルセロナではこんなことが起こる。第3期のホンダチームでは、サーキットに到着したところでエンジニアが借りていたレンタカーが燃え出したことも――オイルタンクの蓋が開けっ放しだった。時を同じくして、一緒にテスト取材に行っていた編集部員は「ボンネットから煙が出てきたところでちょうどレンタカー屋さんを見つけたので、クルマ替えてもらいました」と言った。

 整備不良というか、うっかりというか……ツメが甘い。でも、なんとなく解決してしまうところもスペインらしさで、今回もスタンドのおじさんが「これ、持っていくといいよ」と、冷却水を無料でプレゼントしてくれた。

 いい加減だけど、みんなが親切でなんとなく丸くおさまってしまう。経済危機や失業率の問題は深刻でも、息子の友達が無職で困っていたら「うちで一緒に食事しなさい」とお母さんが言う。外食もリーズナブルだから、カフェやバルは大賑わい。食料自給率は高いし、食事を大切な“文化"とする国だから、お腹の空いた知り合いを見捨てたりしない。心が荒みそうになると、スポーツ選手が大活躍してみんなを元気にする。F1にはアロンソ、テニスにはナダル、サッカーは言うまでもなく……自転車もバスケットボールも強い。羨ましくなるほど、スポーツ大国なのである。

 2006年には14万人以上の観客を集めたカタルーニャ・サーキットも、不動産バブルが崩壊して観客が減少した。でも、高価なメインスタンドには空席が目立っても、芝生の自由席はファンでいっぱい。鈴鹿と同様に、観客はその数よりも存在感でF1を力強くサポートする。このコースが美しいのは、青空の下、無数のフラッグがカラフルに翻るからだ。

 メルセデス・ワークスが圧倒的な強さを誇った4戦の後、スペインGPは各チームのアップデートが楽しみなヨーロッパラウンド開幕戦。当然、メルセデスもアップデートしてくるのだから彼らが有利な事実は変わらないが、空力サーキットではレッドブルのコーナリング性能もタイムに大きく貢献する。トラクション不足に悩んできたフェラーリも、中~高速コーナーでは安定している。メルセデス・パワーユニットに大きく出遅れたルノーやフェラーリも、開幕4戦のデータをもとに、中国GP以降の2週間でエネルギーマネージメントを大幅に見直してくるはずで、その進歩度合いと、クラシックコースのレイアウトを活かして、メルセデスをどれだけ追いかけられるかが楽しみだ。

 フェラーリもレッドブルも、鍵はスタートでメルセデスの前に出ること――上海のルイス・ハミルトンは驚異的なタイヤマネジメントと燃費で他を圧倒したが、ポールポジションからスムーズに首位を独走したのも大きな要因。前のマシンから乱気流を受けるとタイヤを管理するのはより難しくなるし、独走に持ち込めなければコーナー出口でリヤタイヤに負担をかけざるを得ない。バルセロナは高速コーナーが多いこと、タイヤに厳しい舗装であることによって、マルチストップ作戦が見られるサーキットだ。去年のフェラーリはレースの1週間前のミーティングですでに4ストップを予測し、金曜日から作戦をはっきり決めてマシンを仕上げていったことによってアロンソのホームGP優勝を実現した。

 上海のハミルトンは規定の90%ほどのガソリンで優勝した。バルセロナは燃費的に厳しいサーキットではないため、100kgより少ない燃料消費のプログラムを組んで軽いマシンでスタートする=タイヤへの負担を軽くする、方法も有効。ただし、同じメルセデスでも、上海のレース中に“バトル"が必要だったニコ・ロズベルグの燃料消費はフェルナンド・アロンソやキミ・ライコネンのフェラーリと変わらなかった。

 独走ハミルトン、驚異の燃費の理由のひとつはおそらく、メルセデスの8速が、7速からずっと離れた長いギヤであるから。メルセデスのギヤが見えるオンボード映像はめったに放映されないけれど、上海でロズベルグが8速にシフトアップしたのはバックストレートでアロンソの真横に並び、DRSを作動させる瞬間だった。そして8速に入れたところで回転は大幅に低下した。バルセロナのストレート速度では、メルセデスは8速ギヤを使えないかもしれない。

 スタートに優れたフェラーリが1~2コーナーで前に出れば、あるいは去年のアロンソのようにレッドブルが3コーナーのアウトからオーバーテイクを成功させれば、レースはこれまでの4戦と違った流れになる。スタート直後、様々なラインが可能な1~4コーナーまでの攻防が最大の見どころだ。

今年のパワーユニットは去年までのV8より静か――展開次第では、スペインのファンの熱い声援がテレビでも存分に楽しめるレースになる。
(今宮雅子)