2014年05月07日 12:10 弁護士ドットコム
アメリカ・オハイオ州の裁判所がこのほど命じた、珍しい「刑罰」が話題になっている。「私はいじめ加害者です。障害のある子どもたちをいじめました」などと大書したプラカードを掲げて、交差点に居続けるという内容。「15年もの間、隣人に嫌がらせを続けた」として、62歳の男性に言い渡された。
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4月のある日曜。判決にしたがった男性は、5時間にわたって車の行き交う交差点で「さらし者」になった。通りかかった車から警笛や罵声が浴びせられる場面もあったと、米メディアは報じている。男性には合わせて、禁錮15日(執行猶予7月)と、100時間の社会奉仕活動も命じられたという。
アメリカでも珍しいこととしてニュースになったようだが、日本でこんな内容の刑罰が言い渡されることはありうるのだろうか。刑事政策にくわしい萩原猛弁護士に聞いた。
「わが国の刑法が認める刑罰は、死刑、懲役、禁固、拘留、罰金、科料、没収の7種類です(刑法9条)」
刑罰の種類について、萩原弁護士はこう説明する。個々の刑罰は、どういう内容で、どういう違いがあるのだろうか。
「死刑は、生命を奪うことを内容とするため、『生命刑』と呼ばれます。
一方で、懲役・禁錮・拘留は、一定期間施設に拘束することによって自由を奪う『自由刑』に分類されます。
懲役と禁錮の期間は通常1月以上20年以下ですが、一定の場合には30年になることもあります。さらに、刑期が生涯にわたる無期刑もあります。
拘留は拘束期間が比較的短く、1日以上30日未満となっています」
残りの3つはどんな内容だろうか?
「残りは、犯罪者から金銭その他の財産を奪う『財産刑』です。
罰金と科料の違いは金額で、罰金は1万円以上(減軽する場合は1万円未満に下げることができる)。科料は1000円以上1万円未満です。
一方、没収とは、盗んだ物や密輸した物などの所有権を剥奪して、国庫に帰属させることです。没収は、他の刑に付加する形で科されるものです」
これで7種類全部だが、そうなると、米国であったような「さらし者」のような刑罰を科すことはできないということだろうか。
「そうですね。裁判所は、これら以外の『刑罰』を科すことはできません。
日本では、裁判官が判決に際し、法律に定められていない独自の刑罰を考えて、被告人に言い渡すことは許されないのです。
したがって、日本の裁判所が、『さらし者の刑に処する』などという判決を下すことはできません」
なぜなのだろうか?
「それは、『罪刑法定主義』に反するからです。
罪刑法定主義とは、どのような行為が犯罪となり、それにどのような刑罰が科されるかは、あらかじめ法律によって定められていなければならないという刑法の基本ルールです。
もし国家権力の一つである裁判所が、法律とは関係なく、自由に刑罰を決められるとしたら、恐ろしいですよね。罪刑法定主義は、国家権力の恣意的な行使から、国民の自由を守る重要な原則なのです」
萩原弁護士はこのように強調していた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
萩原 猛(はぎわら・たけし)弁護士
刑事弁護を中心に、交通事故・医療過誤等の人身傷害損害賠償請求事件、男女関係・名誉毀損等に起因する慰謝料請求事件、欠陥住宅訴訟その他の各種損害賠償請求事件等の弁護活動を埼玉県・東京都を中心に展開。
事務所名:大宮法科大学院大学リーガルクリニック・ロード法律事務所
事務所URL:http://www.takehagiwara.jp/