2014年05月04日 20:01 弁護士ドットコム
生命保険や旅行保険などの契約の際に、「目を通してください」といって渡される「約款」。重要な文書だが、細かな説明や注意書きなどが満載で、見ているだけでも頭が痛くなる、という人もいるのではないだろうか。
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最近では各社がネットで「電子版」を公開しており、文字拡大やキーワード検索ができるようになるなど、多少は利便性があがっているようだ。それでも、中身をきちんと読み込んで理解するには、相当な根気が必要といえる。
この「約款」。いち利用者としては、どこまで読み込むべきなのだろうか。また、そもそも約款とはどんな性質の文書なのだろうか。大手保険会社の勤務経験があり、保険の問題にくわしい好川久治弁護士に聞いた。
「約款は、多数の利用者との契約を大量かつ画一的に処理するため、企業などがあらかじめ作成した契約条項の集まりです」
好川弁護士は、「約款とは何か」について、このように説明する。
「生命保険に限らず、鉄道・バス・飛行機・船舶などの旅客運送や、宅配・引越などの物品運送、旅行・通信・不動産・銀行などの各種取引、ソフトウェア製品の購入、インターネットサイトの利用など、私たちの生活のなかには、約款があふれています。
約款は、数多くの定型的な取引を、すばやく効率的に行うために不可欠であり、社会的必要性はきわめて高いものです」
好川弁護士によると、裁判でも「約款の有効性」が広く認められているという。
「約款によることが通例で、利用者の信頼の高い取引分野では、利用者は『約款によって取引する意思』があるものと推定されます。そういうケースでは、たとえ利用者が個々の契約条項を知らなくても、約款が利用者を拘束する、とされています」
こうした領域では、約款が「常識的なルール」として通用していて、利用者側もそれを知っているとみなされるということだろう。
そうなると心配なのが、もしその約款に「こっそりと常識はずれのルールが盛り込まれていたら」という点だ。
「約款は、交渉で内容を修正することは予定されていません。利用者は、約款を受け入れるか、そもそも取引をしないかの二者択一しかありません。
そのため、約款を利用した取引では、利用者保護の観点から、利用者があらかじめ約款の内容を知りえる機会が保障され、内容も合理的であることが強く要請されます」
つまり、だまし討ちや、非合理的な内容の約款は許されないということだ。なお、約款の内容については、その業界に応じた国の監視・規制があるという。
「約款に関しては、法律や行政による監督のほか、裁判所による約款の解釈適用を通じて、利用者が不利益を被らないような手当がされています。
生命保険も、保険業法によって厳しい規制が行われており、約款に記載すべき事項が法律で定められています。生命保険会社が約款を作成変更するには、内閣総理大臣の認可が必要とされています。
また、生命保険会社が利用者と保険契約を締結するにあたっては、事前に商品の仕組みや保障内容、保険料、告知義務、責任開始期、免責事由等の重要事項を適切に伝えることなど、約款の内容が確実に利用者に伝わるよう、監督上の指針が定められています」
好川弁護士は生保業界の規制についてこう説明したうえで、次のように結論付けていた。
「生命保険取引においては、制度上も約款の合理性が確保され、利用者が約款に接する機会も保障されています。
したがって、裁判で約款の内容を知らなかった、読んでいなかったなどと主張して、約款の効力を争うことは極めて難しいと言えるでしょう」
そうはいっても、約款を個人で読みこなすのは難しいもの。契約を結ぶ際には、しっかりと保険会社に説明してもらい、疑問点を解消しておくのがよさそうだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
好川 久治(よしかわ・ひさじ)弁護士
1969年、奈良県生まれ。2000年に弁護士登録(東京弁護士会)。大手保険会社勤務を経て弁護士に。東京を拠点に活動。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務まで幅広く業務をこなす。趣味はモータースポーツ。
事務所名:ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所
事務所URL:http://www.hnns-law.jp/