トップへ

親友ベルガーが語るセナの“最速への執念”

2014年05月02日 16:00  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

1990年イギリスGP アイルトン・セナ、ゲルハルト・ベルガー
ゲルハルト・ベルガーが、親しい友人だった故アイルトン・セナの思い出を語った。今年の5月1日でセナが命を落としてからちょうど20年が過ぎた。

 マクラーレンで3回王座に輝いたセナは、ウイリアムズに移籍した1994年、第3戦サンマリノGPの決勝中にコースアウトを喫してクラッシュ、死亡した。

 1990年にマクラーレンに加入したベルガーは、セナにとってレース界で数少ない親しい友人のひとりだった。

 ふたりが初めて本格的な会話を交わしたのはF3時代の1983年11月のマカオグランプリでのことだったという。

「彼がマカオで恐ろしく速いことが分かった」とベルガー。
「僕は3位だったが、どのコーナーでも彼は5メートルずつ先に行き、突然見えなくなってしまった」
「彼が僕らよりうまくコースに適応しているのは明らかだった」

 セナはヒート1、ヒート2共にファステストラップを記録しているが、ヒート2に関しては最初記録の混乱があったという。

「僕が最速ラップのトロフィーをもらった」とベルガー。
「その後のパーティーで、彼が僕のところに来てこう言ったんだ。『間違っている。最速ラップをマークしたのは僕だ』とね。それは事実だったけど、オフィシャルがミスを犯したんだ」
「アイルトンは優勝とポールポジションを獲得していたが、彼にとって一番の問題は最速ラップを手にしていなかったことだった。彼にとってはそれはものすごく悔しいことだった。そのためにパーティーで祝う気にもならなかったんだ」

「僕は冗談を言い、その時のことがきっかけで僕らは話をするようになった。相性がよくて、最初の瞬間から関係はすごくよかった」


 1984年のモナコGPで会った時は、セナはF1ドライバーになっており、ベルガーはサポートレースのF3に出ていた。

「夕方に歩いていたら、彼が自転車で縁石や何かをチェックしていた」とベルガー。
「『ゲルハルト、何してるんだ? なぜまだF1に来ない?』と言うから僕は『心配するな。すぐ行くから』と答えた。数カ月後に僕はF1に昇格し、同じカテゴリーで走ることになったんだ」

 6年後、ベルガーはセナのチームメイトとしてマクラーレンに加入した。
「マクラーレンと契約した時、彼がかなり手ごわいチームメイトになるだろうことは分かっていた。でも僕は今まで誰がチームメイトでも一切問題なかったじゃないか、と考えていた」

「しかし彼の真の能力がだんだんと見えてきた。彼の方が優れていたと言わざるを得ない」
「それでも僕らは親しい友人になった。僕は彼からアドバンテージを奪おうとはしなかったからだ。そうではなく彼を尊重するように努めた。『もっといいパフォーマンスを見せるためには、自分自身の向上に努めるべきだ』と僕は考えた」

「それが僕の哲学であり、それによって僕らは正々堂々と戦い、友情も築くことができた」


 マクラーレンに加入した1990年のサンマリノでのポールポジション争いが印象に残っているとベルガーは言う。

「彼(セナ)はマシンから降りて僕のところにやってきてこう言った。『今、危険な状態だぞ。僕らは最速ラップを交互に出し合っている。OK、新品タイヤで行くぞ!』」
「ふたりで最速ラップを更新し合った後に、彼は言った。『よし、次のランで終わりにしよう』」
 結局セナは2位のベルガーにコンマ5秒以上の差をつけてポールポジションを獲得した。

「常に限界ぎりぎりで戦っている人間と一緒にいるのは難しい」とベルガー。
「でも僕らは休暇の時には全く違った。ボートに乗ったり、いろいろなことをして、笑ったり楽しんだりした」


 セナの事故死について、ベルガーは次のように語っている。

「レーシングドライバーとしては、何とか気持ちを切り替えて『こういうことが起こることもある』と考えなければならない。それは十分承知している」
「しかしアイルトンは特別な個性、特別な才能を持ち、特別なポジションにいる人間だった。だから彼にあんなことが起こるとは全く想像していなかった。本当に辛い出来事だった」