2014年05月01日 12:00 弁護士ドットコム
近所から、けたたましい建築工事の音が鳴り響いてくる――。工事自体は仕方のないことかもしれないが、毎日、騒音を聞かされるほうはたまったものではない。あまりにもひどい場合、耐えられなくなって、住まいを移す人もいるようだ。
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弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも、建築工事の騒音で悩まされている人の質問がいくつか寄せられている。ある妊娠中の女性は、近所の建築工事の音でストレスを感じ、マンスリーマンションに一時的に避難することになったという。
では、近所の住民は「工事音がうるさい」という理由で、施主などに工事をやめてもらえるのだろうか。また、騒音を避けるために一時避難をしたり、引っ越した人は、「一時避難費用」や「引っ越し費用」を、施主に請求できるのだろうか。大阪弁護士会の公害対策・環境保全委員会の委員をつとめる山之内桂弁護士に聞いた。
「工事のうち、くい打ちなど特定の騒音作業には、騒音規制法にもとづく規制基準があり、騒音限度や作業時間が規制されています」
このように山之内弁護士は説明する。それ以外の場合はどうなのか。
「人には、平穏な生活を侵害されない『人格権』や、土地・建物の価値を保持する『財産権』があります。
ですから、規制の有無にかかわらず、工事騒音や地盤振動等の迷惑行為が、周辺住民の権利を脅かし、回復困難な損害を生じさせる危険性が高い場合には、『当該工事をしてはならない』との裁判を求めることが考えられます」
しかし、裁判となると時間がかかりそうだが・・・。
「このような場合、『工事差止の仮処分申立』の方法を使います。仮処分というのは、その名のとおり『仮の処分』なので、通常の裁判よりも早く結論が出るのです。
申立のためには、行政の担当部局に騒音測定を依頼したり、自ら測定して証拠資料を集めることが必要です」
証拠を集めて裁判所に提出するだけで良いのだろうか。
「裁判所は、こうした仮処分の申立てがあると、相手方となる施主や工事業者を呼び出して、事情を聴取します。これを『審尋』と言います。
そして、被害状況や工事の利益等、当事者双方の事情を総合的に判断し、その工事を仮に中止させるべきかどうか審査します」
工事差し止めの結論が出た場合、どうなるのだろう。
「工事を止められる側の損害を担保するため、申立人が一定の保証金を供託することが条件となります。この保証金は工事規模に応じて相当高額になるので、事前の用意が必要です」
工事中止はうれしいけれど、高額な保証金を支払わなければならないなんて、大変だ。工事を止める以外に、損害賠償請求などの手は使えないのだろうか。
「損害賠償として、一時避難や転居の費用賠償を求めることは、不法行為にもとづく損害賠償請求として、可能な場合があります。差止請求よりも損害賠償のほうが、認められやすいかもしれません。仮処分の審尋の場では相手方と話し合いをして、被害低減の方策を取り決める和解をすることもあります。
しかし、裁判所による受忍限度の判断は、被害者が考えているよりも厳しいことが多いのが現実です。したがって、裁判で必ず請求が認められるわけではありません」
どちらにせよ、簡単なことではないようだ。では、泣き寝入りするしかないのだろうか。
「いいえ。被害者側は、裁判等の法的手段を取る前に、施主や工事業者に対して、被害発生状況を具体的に説明し、被害を軽減する対策を十分に検討するように要求するべきです。
また、施主や工事業者側も、『規制さえ守ればよい』という態度はトラブルの元ですので、近隣の生活環境の悪化に対して十分な補償をすべきだろうと思います」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
山之内 桂(やまのうち・かつら)弁護士
1969年生まれ 宮崎県出身 早稲田大学法学部卒、大阪弁護士会 公害対策・環境保全委員会 委員、公益通報者支援委員会 委員長、民事介入暴力および弁護士業務妨害対策委員会 委員、司法修習委員会 委員
事務所名:梅新東法律事務所
事務所URL:http://www.uhl.jp/