2014年04月28日 19:50 弁護士ドットコム
所得税の納税額の上限を2億円にする――。安倍政権がこのような税制改革を検討していると報じられた。アジアで活動する金融・投資企業を呼び込んで、経済を活性化させるのが狙いだという。
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現在の日本の所得税は、所得が多ければ多いほど支払う税金の税率が高くなる「累進課税」という仕組みが採用されている。最高税率は40%で、納税額の上限はない。単純に計算すると、10億円の所得があれば、4億円の税金をおさめなければいけないということだ。
ところが、もし納税額の上限が2億円となれば、そのような高額所得者にとってはおいしい話ということになる。いわゆる「金持ち優遇策」といえそうだが、問題はないのだろうか。このような納税額の上限設定のメリットとデメリットについて、税理士の久乗哲氏に聞いた。
「報道によると、この所得税の納税額に上限を設けるという考え方の根底には、アジアで活動する投資家などの富裕層を呼び込むという目的があるようです。そこを踏まえていうと、納税額の上限を設定するメリットは、二つあります。
一つ目は、アジアに住む富裕層が日本に移り住むことになれば、その所得税が国庫に入るため納税額が増えることです。二つ目は、その移り住んだ富裕層の消費が日本で行われ、経済活性化につながるということです。
一方、デメリットとしては、政府の思惑通り、アジアの富裕層が日本に移り住むことにならなかった場合、もともと日本に住んでいる、所得税の納税額が2億円を超える人が優遇されるだけということになってしまい、その分の納税額が減ることです」
久乗税理士はこのようにメリットとデメリットを説明する。では、政府の思惑通り、アジアの富裕層は日本に移住するのだろうか。
「現在のアジアで税制のメリットが大きく、富裕層に人気なのは、シンガポールや香港があげられます。そこで、シンガポールや香港などに住んでいる富裕層が日本に移住するかどうかが、ポイントになります」
「シンガポールや香港などに住む超富裕層にとって、所得税の納税額の上限が2億円になることが、日本に移り住む理由になるほど魅力的な話なのかといえば、そうでもないような気がします。
シンガポールの最高税率は、32万シンガポールドル超の20%です。日本円でいうと、約2400万円超の場合に20%ということです。一方、日本の最高税率は、1800万円超の40%です。
この最高税率を用いて計算すると、納税額が2億円を超えるのは、シンガポールで10億円以上の所得がある人となります。
つまり、日本の所得税の納税額の上限を2億円にするメリットを受けられるのは、このような一部の超富裕層だけということになります」
こう久乗税理士は説明する。さらに、「もっと大きな問題があります」という。
「シンガポールでは、投資所得については非課税という税制をとっているのです。このために世界の富裕層がシンガポールに移住するというインセンティブが働いています。
つまり、所得税の納税額の上限を2億円にするだけでは、世界の富裕層を日本に呼び込む効果が得られる可能性は低いというべきでしょう。そうなると、さきに述べたメリットよりもデメリットのほうが全面にでる結果になりかねません」
【取材協力税理士】
久乗 哲 (くのり・さとし)税理士
税理士法人りたっくす代表社員。税理士。立命館大学院政策科学研究科非常勤講師、立命館大学院経済学研究科客員教授、神戸大学経営学部非常勤講師、立命館大学法学部非常勤講師、大阪経済大学経済学部非常勤講師を経て、立命館大学映像学部非常勤講師。第25回日税研究賞入選。主な著書に『新版検証納税者勝訴の判決』(共著)等がある。
事務所名 :税理士法人りたっくす
事務所URL:http://rita-x.tkcnf.com/pc/
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