F1チームの多くが活動資金不足に直面し、厳しい経営を強いられている。2013年、サーキット場外の話題はチームの経済問題が多くの部分を占めた。昨シーズン開幕前、マクラーレンのマーティン・ウイットマーシュ(当時)は、「11チーム中7チームが活動資金に苦労している」と語り、特にロータス、ザウバーの2チームは直近の活動資金さえ不足気味という情報が流れた。この2チームには買収、大手企業の支援という話もあったが、2014年シーズンが始まった今もその手の話が実現したとは聞いていない。今年になって、マルシャ・チームも本体の自動車企業(ロシアのスポーツカーメーカー)が事業を止め、チームはマルシャ・グループの別の事業体が引き継いだと報道された。好況だとされたロシアのビジネスにも影が差して来ているのだろうか?
こうしたF1チームの経費不足は、世界を覆う「経済の不透明性」にあるとされている。なぜなら、一部の自動車メーカー・チームは別として、F1チームのほとんどは独立した企業体であり、自動車メーカーやスポンサー企業から支援で活動を成り立たせている。とはいえ、自動車メーカーはワークス・チームと言われる直営チーム以外には技術的支援をしても金銭的支援をする余裕までは無く、プライベート・チームの活動資金はやはりスポンサー企業からの支援に頼るしかない。しかし、世界不況の煽りで多くの企業が収益の縮小に直面している今、宣伝・広告費に多額の金額を割くことは難しい状況だ。ましてや、スポンサー資金といってもF1のそれは想像以上に巨額なのである。
F1チームのビジネス・スタイルが古いといわれる点も、スポンサー企業の獲得を困難にしている。サーキットを走る姿をテレビ中継で放映してもらうという昔ながらのスタイルでは、スポンサーは十分な恩恵を受けるとは言い難い。
F1は世界中で最もテレビ放映のネットワークが充実しており、視聴者数は他のスポーツを圧倒している。それでも近年の視聴者数は減少傾向にあるという。理由のひとつはテレビ局がF1中継の放映権料の高さに閉口、番組を有料のペイ・チャンネルに移行する傾向にあるためだ。地上波と比べてやはり有料放送は視聴者を遠ざける。となると、スポンサーになろうと考える企業が減少するのも宜なるか。
F1チームは、テレビ放映の視聴率低下を見据えた上で、様々な手法を使って支援企業がより効率的なプロモーションを行える機会を増やすように考える必要があるだろう。テレビに代わるメディアとしてのSNSなどインターネット媒体の発達を視野に入れ、新しい手法でスポンサー企業を満足させるアイデア。それが出来て初めてスポンサーは満足し、チームはその恩恵を受けることになる。
とはいえF1チームのスポンサー企業への最大の貢献は、サーキットで好成績を上げることに他ならない。優勝が出来ればそれに越したことはないが、とにかく上位に入り多数のメディアに取り上げられることが重要。そのためにチームの技術基盤をしっかりとしたものにし、その上でレースに勝てる技術を搭載した高性能なクルマの開発が必須だ。そのための資金確保として、スポンサーからの支援を受けるのだ。
ただ、ここで注意しなくてはならない点がひとつある。スポンサー資金をすべて技術開発に注ぎ込まないことだ。大抵の技術者はそれをする。技術開発にはいくら資金があっても足りないと言われる。技術者はそのことを逆手にとって資金を湯水のように使うのだ。だが、それは時代遅れのお金の使い方と言えるだろう。資金を1円単位まで使い切っても、クルマの性能が上がるとは限らない。そして、ある程度の額を残しておかないと、事態が急変したときにチームは存続さえあやうくなる。
しかし、F1のスポンサー額はスポーツの中で最も高額であり、この要素もスポンサー営業を難しくしている。平均額は5億円から10億円。景気好調な時にはこの程度の金額は躊躇なく出す企業もあったが、経済不況下ではいずれの企業も慎重になった。景気回復の兆候が見られる現在でも、その傾向は変わらない。それはかつての好景気下での無定見なスポンサー支出が、ビジネスにプラスに働かないことを経験したからだ。チームは甘言を弄して多額の資金を集めたが、多くの企業はその支出に見合う見返りを得ていなかった。
それを知る企業は、個々のF1チームへのスポンサードをする代わりに、F1そのものへの支援を始めた。計時を司るロレックス、ロジスティックスに携わるDHL、いくつかのグランプリの冠に付くエミレーツ航空などがそれだ。F1そのものへのスポンサードは、個々のチームの成績に関わりなく大きくメディアに露出する。新しいF1スポンサーシップの形態である。
しかし、こうした状況下においても、今年ある注目を集める企業がF1チームのスポンサーに名乗りを上げた。ウイリアムズF1チームの冠スポンサーに付いたマルティニだ。この酒造メーカーは1970年代にモータースポーツ・スポンサーシップの世界で伝説にまでなった銘柄だが、20年の歳月を経て、今なぜこの世界に戻って来たのだろうか? 次回はマルティニのプロモーション担当、ウィリアムズの代表などの話を交えて、モータースポーツのスポンサーシップを考える。
(新井昭栄/F1速報)