2014年04月27日 16:50 弁護士ドットコム
「業務上過失致死傷罪」。多数の死傷者が出たビル火災や鉄道事故の際、ニュースで耳にすることがある言葉だ。昨年の京都・福知山の露店爆発事件をはじめ、船舶事故や医療事故、保育園での死亡事故など、さまざまなケースで問題となっている。
【関連記事:「プロレス技は接触する肌の面積が大きい」 なぜ「JKリフレ」は摘発されたのか?】
一方、あまり大きく報道されないが、業務上がつかない「過失致死罪」や「過失傷害罪」という犯罪も存在する。実は、「業務上」がつくかどうかで、刑罰にも大きな差があるのだ。
業務上過失致死傷罪は、5年以下の懲役・禁固、もしくは100万円以下の罰金だ。一方で「業務上」が外れると刑罰は罰金刑となり、過失致死罪で50万円以下、過失傷害罪では30万円以下の罰金となっている。
では、業務上過失致死傷罪とは、どんな犯罪なのだろうか。また、「業務上」がつくかつかないかで、どうして刑罰にこれほどまでの差が生じるのだろうか? 田沢剛弁護士に解説してもらった。
「まず、条文を紹介します。刑法211条1項前段は『業務上必要な注意を怠り、よって、人を死傷させた者は、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処する』と定めています。これが『業務上過失致死傷罪』です。
業務というと、職業としての仕事を指しているようにも思いますが、ここでの意味はそれよりも広く、《人が社会生活を維持する上において、継続して従事する仕事》という意味です。収入を得るための職業に限らず、営利目的である必要もありません」
田沢弁護士はこのように説明する。「継続して従事する仕事」という点がキーポイントと言えそうだ。では、なぜ「業務上」だと罪が重くなるのだろうか。
「重く処罰される根拠について、一般的には、《業務者には、通常人と異なった特別に高度な注意義務が課せられており、その高度な注意義務に違反するから》と説明されています。
ただ、異なる考え方もあります。それは、同じ行為に対して要求されるべき注意義務の内容は、業務者であるか非業務者であるかにかかわらず、本来は同一である、というものです。
この見解に基づいた場合、業務者と非業務者とでは、もともとその注意能力に差があるため、《その能力に応じて責任の重さが違う》という説明になります」
かなり立ち入った話になったが、「業務上」という点について、法律家の間ではこんな風に考えられているということだ。田沢弁護士は続ける。
「なお、『業務上過失致死傷罪』に問われるのは、あくまで業務上必要な注意、言い換えると《業務との関連で要求される注意》を怠った場合です。これは、業務中に注意を怠ったという意味ではありません」
そうすると、たとえば『仕事中、歩道を歩いていて、つまずいた拍子に誰かにケガをさせてしまった場合』はどうなるのだろうか?
「『道を歩く』という行為は、普通の人なら誰でもする行動です。したがって、この場合は、高度な注意義務がある『継続して従事する仕事』に関連して起きた事故とはいえないため、業務上過失致傷罪には該当しません」
田沢弁護士はこのように説明を締めくくっていた。今回教えてもらった「業務上」の作業をしているときには、注意を怠らないようにすべきと言えそうだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所