2014年04月27日 15:50 弁護士ドットコム
家賃を滞納した人にあの手この手で嫌がらせをして、出ていくことを迫る「追い出し屋」――「勝手にカギを変えられた」「留守中に家財がなくなっていた」など、その強引な手法は、これまでにも数多く報道されている。
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住居は、その人の生活の基盤だ。借主が家賃を滞納した結果、最終的には出ていかざるをえないとしても、家主の側が「追い出し」のためにどんな手段を使ってもいいわけではないだろう。なにごとにも限度というものがあるはずだ。
もし「追い出し屋」に、理不尽といえるような嫌がらせを受けたら、どうすればいいのだろう。家賃を滞納した落ち度がある以上、あきらめるしかないのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。
「緊急性が高い『特別の事情』がない限り、大家や不動産屋が、アパートの家賃を滞納したことを理由にして、部屋から荷物を勝手に撤去したり、鍵を交換したりすれば、借主に対する不法行為(民法709条)にあたり、違法ということになります」
田沢弁護士はこのように説明する。借主は、このような「追い出し行為」によって生じた損害について、賠償を請求できるのだという。なぜ、そういう結論になるのか。どうやら「自力救済の禁止」という考え方がカギとなるようだ。
「家賃を滞納している借主に対し、大家が賃貸借契約を解除して部屋の明渡しを求めたのに、借主がこれに応じない場合があるとします。
このようなとき、通常の手続きとして、大家は裁判所に明渡しを命ずる判決を求めます。そして、その判決にもとづいて、裁判所に明渡しの強制執行をしてもらうことになります。
他方、裁判所の力を借りずに、私的な力で権利を実現することは『自力救済』と呼ばれ、原則として、違法な行為だとされているのです」
田沢弁護士は、自力救済について判断した最高裁判所の判例を引き合いに出す。
「最高裁判所は、昭和40年12月7日の判決で次のように述べています。
『私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない』
このように判示して、法的手続によらない『自力救済』が原則として禁止されることを明らかにしているのです」
つまり、部屋から荷物を勝手に撤去したり、鍵を交換するといった行為は「自力救済」であり、そのような行為は原則として禁止されているので、追い出し行為は「不法行為」となるということなのだ。
「追い出し行為については、最近でも根絶されていないようで、これを違法とする下級審判決が相次いでいるようです」
もしも「追い出し屋」に嫌がらせを受けたときは、「自力救済は禁止されている」ということを思い出して、冷静に対処したい。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所