2014年04月26日 14:30 弁護士ドットコム
睡眠薬で意識を失ったすきに、金目の物を奪われる「昏酔強盗」事件が話題だ。昨年12月に東京都内で発生した事件について、警視庁は、防犯カメラに映った容疑者の女性の画像を公開し、情報提供を呼びかけている。
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報道によると、公開捜査となった事件の被害男性は、自宅マンションで女性に睡眠薬入りの酒を飲まされて意識を失った。およそ半日後に目を覚ますと、部屋から現金約6万円と高級腕時計など3点(45万円相当)がなくなっていたという。
都内ではこうした昏酔強盗事件があいついで報告されているが、「強盗」というと、拳銃や刃物でおどして、むりやり人から金品を奪い取る犯罪という印象があるのではないか。今回、問題となっている「昏酔強盗」は、ちょっとそれとは違う気がするが、普通の強盗とどこが同じで、どこが違うのだろうか。刑事事件にくわしい徳永博久弁護士に聞いた。
「昏酔強盗罪は、『強盗』という罪名が用いられているものの、暴力行為によって相手方の反抗を抑圧することを予定していません。本来的な強盗罪とは性質が異なることから『”準”強盗罪』と呼ばれています」
強盗罪とどこが違い、どこが似ているのだろう。
「一般によく知られている強盗罪は、銀行強盗やコンビニ強盗のように、拳銃や刃物を銀行員や店員に向けて脅迫したうえで金品を奪ったり、集団で被害者を取り囲んで殴る蹴るなどの暴行を加えたうえで財布を奪ったりするケースに適用されます。
これらはいずれも、『暴行または脅迫をもって相手方の反抗を抑圧したうえで他人の財物を奪う』という点で共通しています。一方、昏酔強盗罪は、暴行・脅迫といった粗暴な行為を伴いません。
しかし、昏酔強盗と通常の強盗は、『相手方の反抗を抑圧して財物を奪う』という点では共通しています。
ですから、強盗罪と同一の法定刑によって厳しく処罰されるのです」
では、昏酔強盗はどんなときに成立するのだろう。
「昏酔強盗罪の成立要件の『昏酔させる』という行為について説明しましょう。
これは、『意識作用に一時的または継続的な障害を生じさせ、財物に対する支配をなしえない状態に陥れること』を指します」
このように徳永弁護士は説明する。
「具体的な手段としては、睡眠薬や麻酔剤を投与したり、大量のアルコールを飲ませて泥酔させたり、催眠術を施したりといった行為があげられます。
昏酔強盗の犯人たちは、こうした手段を使って、相手方が本来の判断能力を喪失するような状態に置きます。悪質性や身体に及ぼす危険性という点では、暴行・脅迫行為によって反抗を抑圧する場合となんら変わりがありませんね」
では、被害者が自分の意思で酒を飲んで酔っぱらってしまったあと、誰かに金品を盗まれた場合はどうなのだろう。
「たとえば、終電で酔っぱらって寝ているサラリーマンのポケットから財布を抜き取る行為は、相手を泥酔させて物を奪うわけではありません。相手の判断能力を喪失させるといった悪質性や危険性がないことから、単なる『窃盗罪』になり、法定刑も軽くなります」
犯罪の悪質さでは強盗と変わりない昏酔強盗。いま話題になっている事件が早く解決することを期待したい。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
德永 博久(とくなが・ひろひさ)弁護士
第一東京弁護士会所属 東京大学法学部卒業後、金融機関、東京地検検事等を経て弁護士登録し、現事務所のパートナー弁護士に至る。職業能力開発総合大学講師(知的財産権法、労働法)、公益財団法人日本防犯安全振興財団監事を現任。
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://ogaso.com/profiles/16.html