2014年04月25日 18:01 弁護士ドットコム
無許可で客にダンスを踊らせたとして、風営法違反(無許可営業)の罪で起訴された大阪の老舗クラブ「NOON」の元経営者・金光正年氏に対して、大阪地裁は4月25日、「無罪」の判決を出した。NOONで行われていたダンスは「性風俗秩序を乱すおそれのあるものとはいえない」として、同店が風営法の規制対象ではなかったと判断した。
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判決を受けて、弁護団長の西川研一弁護士が「歴史的意義を有する」と声明を発表。風営法の規制対象を限定的にとらえた判決を高く評価した。そのうえで「判決を確定させるべき」として、検察に控訴しないよう求めた。
さらに、根本的な問題は「終戦直後の混乱期の価値観を引きずり、曖昧な根拠で人を罪に問う風営法の規定のいい加減さにある」として、風営法の規制撤廃を求めていく姿勢を打ち出した。西川弁護士は判決前、弁護士ドットコムのインタビューに対して、「無罪の可能性は十分ある」と答えていた。http://www.bengo4.com/topics/1344/
西川弁護士が事務所を通じて発表したコメントの全文は次のとおり。
本日、大阪地方裁判所第5刑事部は、無許可で風俗営業を営んだ罪で起訴された金光正年氏に対し、無罪の判決を言い渡した。私たち弁護団は、緻密な事実認定及び分析と、憲法の趣旨、時代や社会の変化を踏まえた規制趣旨の限定解釈により、健全な常識に則った結論を示した裁判所の判断を評価し、敬意を表する。
この事件は、平成24年4月4日午後9時43分ころ、金光氏が、大阪市北区のクラブNOON(以下「NOON」という。)で、大阪府公安委員会の許可を得ず、「ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ、かつ飲食させる営業」を行ったとして、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)に基づき、無許可営業罪に問われたものである。摘発された当時、NOONでは、イギリスのロック・ミュージックをテーマとしたDJイベントが行われており、20人前後のお客さんが、フロアで音楽を楽しんでいた。そこに、あらかじめ店内に潜入していた捜査員十数名を含む警察官45名が強制捜査を行い、金光氏らNOONのスタッフ8人を逮捕したのである。
金光氏と私たち弁護団は、NOONにおいて、性風俗秩序を乱すおそれのあるいかがわしいダンスをお客さんにさせたことはないとして、犯罪が成立しないことを主張した。
また、ダンスやクラブを一律にいかがわしいものとみなし、厳しく規制する風営法は、憲法21条1項の保障する表現の自由、憲法22条1項の保障する営業の自由を不当に侵害する違憲の法律であることを指摘した。
さらに、前身の風俗営業取締法が制定された昭和23年から60年以上が経ち、社会におけるダンスの評価、風俗や文化のありようが大きく変化したにもかかわらず、なおダンスを指標に性風俗秩序を統制しようとするダンス営業規制は、もはや人に刑罰を科す実質的根拠を失った時代遅れの法律であることを立証した。
裁判所は、風営法ダンス営業規制の趣旨を「風営法2条1項3号の文言に形式的に当てはまるのみならず、具体的な営業の態様から、歓楽的、享楽的な雰囲気を過度に醸し出し、単に抽象的な可能性にとどまるのではなく、わいせつ行為の発生など、性風俗秩序を乱す具体的なおそれがある営業を規制することによって、善良な風俗及び清浄な風俗環境を保持し、青少年の健全な育成を保護する目的」と限定的に解釈すべきであることを明言した。そのうえで、金光氏が経営に携わっていたNOONの営業実態について、「お客さんの行っていたダンスそのものは、それだけでは性風俗秩序を乱すおそれのあるものとはいえない。DJらの演出も、音楽や映像を使って単に盛り上がっている域を超えていたものとは認められないし、露出の多い服装を煽るなど、ことさらにわいせつを煽るような演出がされていたとも認められない」と認定して、NOONが、風営法の規制対象にあたらないと判断した。本判決は、風営法の規制趣旨を限定的に解釈すべきことを明らかにしたものとして、歴史的意義を有するものと確信する。
本判決は、結論として、風営法のダンス営業規制が、直ちに憲法21条1項の保障する表現の自由を侵害しているとはいえないことを述べたものの、クラブ経営者の企画運営や、クラブでダンスに興じる客の行為が、場合によっては、憲法の保障が及ぶ表現行為に該当し得ることに触れた点でも、画期的である。無許可風俗営業罪が問われる事件では極めて異例の18人もの証人尋問を行って、緻密に事実を認定し、常識に合致する判断を示した裁判所には、一定の敬意を表したい。
本公判の審理によって、風営法を根拠にクラブを集中的に摘発してきた捜査機関が、極めて杜撰な捜査を行ってきたことが明らかとなった。杜撰な捜査の根本的な原因は、ダンスに対する社会の評価が大きく変わり、社会や文化のありようが変動しているにもかかわらず、終戦直後の混乱期の価値観を引きずり、曖昧な根拠で人を罪に問う風営法の規定のいい加減さにある。もはや、現行風営法を用いて、クラブを一律にいかがわしい営業とみなし、摘発することは許されない。
私たち弁護団は、検察官に対し、本判決に対する控訴を直ちに断念して、金光氏に、NOONに罪が成立しないことを明言した本判決を確定させるよう求める。
私たち弁護団は、大阪府警察をはじめとする全国の捜査機関に対し、既に規制根拠を失っていることが明らかな現行風営法に基づき、クラブを摘発することは許されないことを認識し、今後、二度と不当な捜査・摘発を行わないよう強く求める。
私たち弁護団は、本判決によって、不合理さが明らかとなった現行風営法を速やかに改正し、ダンスを指標として性秩序を統制しようとする時代遅れの規制を速やかに撤廃するよう求める。
平成26年4月25日
NOON訴訟弁護団
弁護団長 西川研一
(弁護士ドットコム トピックス)