2014年04月25日 12:10 弁護士ドットコム
NHKの籾井勝人(もみい・かつと)会長が、同局とその関連団体に所属する役員・職員の全員に対して、まだ発覚していない「不祥事の情報」を提供するように呼びかけたとして、物議をかもしている。
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NHKにはすでに内部通報制度があるが、今回はそちらではなく、今年3月に発足した会長直属の「NHK関連団体ガバナンス調査委員会」へ情報を提供するよう呼びかけている。受け付け窓口は、同委員長の小林英明弁護士の事務所だという。
関連会社の不祥事があいついだことを受けた動きだが、職員からは「会長のパフォーマンス」と反発する声も出ているようだ。一般論として、企業が、もともとある内部通報制度とは別に、トップ直属の不祥事通報制度をつくる意義は、どれほどあるのだろうか。山本雄大弁護士に聞いた。
「企業における内部通報制度は、通報者が安心して通報できるシステムでなければ、機能しません。その意味で、企業のトップが内部通報を積極的に奨励することは、通報者への良いアピールとなります。
また、情報提供先として外部の弁護士窓口を設けることは、制度への信頼性を高めることにもつながりますし、チャンネルが多くなれば通報もしやすくなります」
一般的にトップからの呼びかけやチャンネル増加は、前向きな効果を期待できる場合もあるようだ。今回についてはどうだろうか?
「今回のNHKの会長による呼びかけは、報道等を見る限り、効果があるとも、内部通報制度の活性化に結びつくとも思えません。
通報した人の秘密がきちんと守られるのか、提供した不祥事の情報に関する事実調査はどうなるのかなど、制度に不明確なところがあると、安心して通報することはできません。
こうした観点からすると、さまざまな手続が定められている既存の内部通報制度ではなく、唐突に立ち上げた調査委員会に対する情報提供を募っても、通報者の信頼は得られないでしょう」
あいつぐ不祥事を受けて、NHKはどうすればいいのだろうか?
「もし不祥事があいつぎ、内部通報制度が機能していないというのであれば、コンプライアンス体制や企業風土も含めて、通報者が安心して通報できるシステムがそもそも構築できていないと考えるべきです。
そうだとすれば、今回のような職員への情報提供の呼びかけとは次元の違う取組みが、必要なのではないでしょうか」
山本弁護士はこのように述べ、企業体質や通報制度を抜本的に見直す必要性に言及していた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
山本 雄大(やまもと・たけひろ)弁護士
1995年弁護士登録(大阪弁護士会)、欠陥商品被害救済を中心に消費者問題に取組む。公益通報者保護についても法制定時から取組み、内閣府消費者委員会に設置された公益通報者保護専門調査会では委員を務めた。
事務所名:藤巻・山本法律事務所