中国GPでも問題となったレッドブルのチームオーダー無線。一瞬、セバスチャン・ベッテルがオーダーを無視するような行動に出たが……無線の前後と、その後の詳細から、チームとドライバーふたりの関係を読み取る。
「セバスチャン、リカルドを先に行かせてくれ」
「彼のタイヤは? どうして譲らなきゃいけない?」
レース中盤、レッドブルの無線が国際映像に流れた。だが、セバスチャン・ベッテルはダニエル・リカルドを抑え込み、バーレーンGP終盤のバトルに続いてまたしてもチーム内に緊張が走る……外からは、そう見えた。
「そんなの"tough luck(身から出た錆)"でしょ?」
ベッテルが無線で応える。同じタイヤを履いている、つまり同じ戦略であるのなら、速さが足りなくて抜けないのなら仕方がないのではないか。ベッテルはそう言いたかったのだ。
しかし、リカルドはベッテルよりも3周新しいタイヤを履いていた。そして何より、ベッテルはこの時点で3回ストップ作戦への変更を視野に入れていた。結果的にはペースを落とすことで2ストップで走り切ったものの、最初からタイヤを上手く使い当初の予定通り2ストップで走り切れる確信を持っていたリカルドとは違い、ミディアムタイヤのデグラデーションが思いのほか速く進んだベッテルはそうせざるを得なかったのだ。
「セバスチャン、ダニエルは2ストップ作戦だ」
ベッテルは23周目から3周にわたってリカルドとテールトゥノーズの戦いを演じたが、その無線を聞いて、26周目のターン1でアウト側にラインをとり、インを開けた。
「あれは僕が譲ったんだ」
レース後、ベッテルは戦略の違いを知らなかったから純粋にポジション争いをしていたのだと釈明した。
「最初はあの指示の趣旨が何だか理解できなかったんだ。バーレーンの時とは違って、僕らは2台とも同じタイヤを履いていたからね。だからダブルチェックの意味で聞いたんだ。あの時点ではダニエルと僕は違う戦略を採っていてから彼の方が速くてああいう指示が出された。レースが終わってみればあそこで彼を抑え続けることが無意味だったと分かるけど、あの時点ではどうなのか分からなかったんだ」
これについてはリカルドも「僕らはレースをしていたし、そういうときはできるだけ相手を抑えようとするものだ。チームから無線で指示されてからはすぐに譲ってくれたしね」と大人の対応を見せた。
しかし、ベッテルが今季型マシンのドライビングに苦労し、焦りを見せていることは確かだ。周回遅れの小林可夢偉に苛立ちを見せるなど、ベッテルらしくない場面も散見される。
「ダニエルはとても良くやっているよ、1週末だけじゃなく安定して良いレースをしている。今年はクルマが去年までとは大きく違うけど、彼はそれを最大限に引き出せているんだ。逆に僕はそこに少し苦労している」
結果的にリカルドは最後にフェルナンド・アロンソを追い切れず、またしても初表彰台には手が届かなかった。ベッテルとの攻防で失ったロスがなければ、果たしてどうだっただろうか。
「正直に言えば本当に表彰台に乗りたかったし、もちろんガッカリしているよ。でも僕はやれるだけのことはやったし、その点に関してクエスチョンマークはないよ」。リカルドはいつもの笑顔でそう言った。
表 面上は再び平穏に戻ったかに見える。しかしこんな状態がいつまでも続けば、レッドブルのチーム内に渦巻く不協和音の兆しがいつ現実のものとなって響き渡ってもおかしくはない。
(米家峰起)