2014年04月22日 12:40 弁護士ドットコム
ボールペンなのに、鉛筆のように書いた文字を消去することもできる「消せるボールペン」。紙のうえに書いた文字をゴムでこすると、熱の作用でインクが透明になり、見えなくなるのが特徴だ。
【関連記事:みんなの党・渡辺前代表の「8億円借り入れ問題」 違法かどうかの「分かれ目」は?】
ところが、この特徴を悪用した事例も報道されている。茨城県土浦市の消防本部に勤める男性が昨年9月、消せるボールペンで勤務管理表に時間を記入。上司の決裁後に書きかえることで、時間外勤務手当約70万円を不正受給し、懲戒免職になったという。
こうしたケースは、身近なところにもありそうだ。同じように「消せるボールペン」を使って文書を書きかえて、勤務先の企業から不正に残業代をもらった場合、なにかの罪に問われるのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。
「たとえば、次のような事例があったとしましょう。
(1)民間企業の従業員が、『消せるボールペン』で記入した勤務管理表を上司に提出し、確認印(決裁印)をもらった。
(2)その後、記入済みの退社時間を消し、実際よりも遅い時間を記入した。
(3)その書類により、時間外勤務手当を不正に受給した」
田沢弁護士はこのように具体的な場面を設定したうえで、次のように説明する。
「まず、この確認印が押された勤務管理表を書きかえてしまう行為は、刑法159条が定める『有印私文書偽造罪』となります。
『偽造』とは、作成権限のない者が、他人名義の文書を作成することです。今回の行為は、一から偽の文書を作ったのではなく『書きかえ』なので、一見違うことのように思えます。
しかし、上司の確認印が押された勤務管理表の『本質的な部分』に対して、権限のない従業員が不法に変更を加える行為は、無断で管理者の確認印を押して勤務管理表を作成するのと同様だといえます。
したがって、『有印私文書偽造罪』になるのです」
「さらに、この勤務管理表を賃金計算のために会社に提出する行為は、偽造私文書行使罪(同法161条)に該当します。
加えて、会社の経理担当者をだまして会社に過大な賃金を払わせた場合には、当然、詐欺罪(同法246条1項)に該当することになります」
こうしたことは、立派な犯罪行為というわけだ。場合によっては、逮捕もありえるのだろうか? 田沢弁護士は次のように警告していた。
「実際問題として、その会社が被害届を提出したり、刑事告訴をしないかぎり、捜査機関が動くことはないでしょう。
しかし、こうした行為が犯罪であることには間違いないので、『消せるボールペン』を悪用することのないようにしていただきたいものです」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp/