2014年04月10日 15:50 弁護士ドットコム
2020年のオリンピックが東京に決定したことを受け、観光客へのアピールにつながるとして、「カジノ解禁」に向けた気運が高まってきた。
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国会では現在、いわゆる「カジノ法案」(正式名称:特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)が審議されている。カジノ施設の誘致先として、大阪や沖縄、東京・お台場などといった具体的な名前もささやかれている。
一方で、カジノ解禁に反対する声も根強くある。4月12日には、弁護士らのグループが「全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会」を発足させる。彼らは、どうしてカジノに反対するのだろうか。同協議会の新里宏二弁護士に聞いた。
「私たちはこれまで、多重債務者の救済に取り組み、2006年12月にはグレーゾーン金利を撤廃するなどの法改正を実現してきました。
その中で、ギャンブル依存症で借金を重ね、家族をなくし、犯罪に染まり、はては自殺に至る事案など、多くの悲劇をつぶさに見てきました」
カジノ反対協議会設立の背景について、新里弁護士はこう述べる。いま立ち上げようとしたのは、なぜなのか。
「東京オリンピックに合わせ、カジノ(民間賭博場)を解禁し、国の内外から観光客等を誘致し、日本経済の活性化を図ろうという動きが加速しています。私の地元・仙台でも、被災地の振興策として、カジノを誘致するという報道がされました。
そこで今回、多重債務問題やギャンブル依存症問題に関わっている方や大阪・沖縄などでカジノ反対運動を行っている方、消費者団体や労働団体などに広く呼びかけ、本協議会を結成することになったのです」
そもそも、なぜカジノに反対するのだろうか?
「賭博は古来より、勤労の美風等を損ない、犯罪を惹起するなどの理由から、日本では厳しく罰せられてきました。
また、依存症問題も深刻です。2008年の厚労省による調査によると、日本の成人男性9.6%、成人女性1.6%がギャンブル依存症患者です。人口換算すると、その数は560万人にも及びます。
それもそのはず、2010年のパチンコの売上は19兆3000億円、それ以外のギャンブルおよび宝くじの売上は5兆300億円にも達しています。すなわち、日本はすでに『ギャンブル大国』となっているのです」
「このギャンブル依存症に特効薬はありません。依存症患者は、ギャンブルのため借金を抱え、その支払いに追われ、強盗や窃盗などの凶悪犯罪を犯し、まわりの家族や友人にも多大な苦しみを与えます。カジノは、そんな依存症問題を加速させます。
一方で、推進論には、賭博の負の影響や、それを禁止してきた日本の法制度についての深い洞察もありません。暴力団・マフィアの跋扈(ばっこ)、犯罪の増加は明らかでしょう。
カジノでは、一部のものが利益を得る一方で、多くの者が負けることになります。そうした多くの犠牲の上に、国家が産業振興のための特区を作り、賭博を解禁していくのであれば、『ブラック国家』のそしりを免れないと考えます」
カジノ反対協議会は今後、どんな議論を行い、どんな活動を展開していくのだろうか。新里弁護士は次のように話していた。
「日本をこれ以上の『超ギャンブル大国』にする必要はありません。
日本はなぜ、民間賭博を禁止してきたのか。その立法の趣旨や深刻な依存症問題に、もっと目を向けるべきです。多くの人々の犠牲のもとで一部の人間が利益を得るような産業振興策が正しい政策なのか。そういった点を十分議論する必要があります。
今後は、国会内での集会や街頭での行動などについて、カジノに反対する消費者団体や労働団体、市民団体など、幅広い団体・個人と連携していきます。法案の問題点を、国民の中で明らかにし、法案に反対あるいは慎重な意見をもっている政党にも協力をお願いして、カジノ法案の成立阻止のため全力を傾けたいと思います」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
新里 宏二(にいさと・こうじ)弁護士
1952年岩手県盛岡市生まれ。中央大学法学部卒業、1983年仙台弁護士会登録、多重債務問題等に取組み、2010年度仙台弁護士会会長、翌年度日弁連副会長、震災対策に取組み、現在ブラック企業対策全国弁護団副代表等。
事務所名:新里・鈴木法律事務所