2014年04月08日 19:30 弁護士ドットコム
米ネバタ州ラスベガスにあるカジノで、一夜にして50万ドル(約5110万円)もの大金をギャンブルで失った男性が、負けの帳消しを求める訴訟を起こして、話題になっている。男性は、賭けに参加したことを含めて、カジノでの記憶はないと主張しているようだ。
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報道によると、この男性は1月下旬の夜、酒に酔った状態でカジノにやってきた。その後、17時間にわたって賭けを続けながら、約20杯の酒を飲んだ。男性は、「カジノ側には、泥酔状態だった自分がギャンブルに参加することを認めた責任がある」と訴えているという。
日本にはカジノはないが、競馬や競輪、競艇などの公営競技は認められている。もし仮に、これらの客が泥酔した状態で投票券(馬券など)を買った場合、「購入は無効だ」として、返金を求めることはできるのだろうか。村上英樹弁護士に聞いた。
「賭け事は賭博契約(射倖契約)なので、本来ならば、民法90条でいう公序良俗に違反して、無効です。しかし例外的に、競馬等の公営ギャンブルは特別法により認められているので、有効な契約となります。アメリカのカジノも法によって認められたものです」
一般的な賭博は、そもそも違法行為だから、契約は無効になってしまうということのようだ。では、泥酔状態で、公営ギャンブルをした場合はどうなるのだろう。
「客が泥酔していたことを理由に、契約時に『意思能力』がなかったとして、『契約は無効である』と主張することが考えられますね。意思能力とは、『事理を弁識する能力』とされています」
事理を弁識する能力……。なんだか難しいが、簡単に言うと、どういう意味なのか。
「そうですね。『自分が何をやっているのか』ということと、『その結果としてどうなるのか』ということを認識できる能力のことです。意思能力がない場合というのは、たとえば、認知症によって判断能力が低下している場合が典型です。泥酔の場合も、一時的に意思能力がなくなるという状態があり得ます」
ということは、泥酔状態での公営ギャンブルも無効となり得るのだろうか。
「そうとも限りません。立証の壁があるからです。意思能力がなかったという証明は、契約が無効だと主張する人がしなければなりませんが、簡単なことではないのです」
なぜだろう。
「たとえば、認知症の場合は、医師の診断書などがあれば証明できますね。しかし、泥酔の場合は、そのときに医師の診断書をもらうことなどは通常想定できませんから、『意思能力がない』といえる状態まで判断能力が低下していたことを証明するのは、かなり難しいと考えられるのです」
たしかに、契約の無効を訴えようと思ったときは、すでにアルコールが抜けた状態になっているだろうから、そのときに医師に診断書をもらいにいっても、「泥酔」と診断してもらうのは難しいというわけだ。どうやら、世の中は酔っ払いに甘くはないようだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
村上 英樹(むらかみ・ひでき)弁護士
主に民事事件、家事事件、倒産事件(債務整理含む)を取り扱い、最近では、交通事故(被害者)、投資被害、医療過誤事件を取り扱うことが多い。法律問題そのものだけでなく、世の中で起こることそのほかの思いをブログで発信している。
事務所名:神戸シーサイド法律事務所
事務所URL: http://www.kobeseaside-lawoffice.com/