2014年04月03日 19:30 弁護士ドットコム
「マタニティーマーク」をつけた妊婦に嫌がらせをする――。こうした事態が近ごろ多発しているという。ツイッターやインターネット相談サイトには、「電車の中でサラリーマンに舌打ちをされた」「『妊婦が公共交通機関を使うな』と罵倒された」などの体験談が報告されている。
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ひどいケースでは、お腹を鞄や肘で押されたり、ホームから突き落とされたりといった暴力行為を受けた妊婦もいるようだ。もともと妊婦を守るために考案されたマークが、逆に妊婦を危険にさらすきっかけになるというのは、なんともやりきれないが・・・。
万が一、こうした妊婦に対する暴力が原因で、死産となったり、胎児に障害が残った場合、暴力をふるった人の「罪」はどうなるのだろうか。元検事で刑事事件にくわしい野口敏郎弁護士に聞いた。
「まず、胎児を『人』とみなすかどうかという問題がありますが、刑法では、出生前の胎児は『母体の一部』と考えられています。そのため、胎児に対する殺人罪や傷害罪というのは成立しません。
したがって、妊婦への暴力行為がきっかけで流産をしたり死産となった場合、あるいは胎児に障害が残った場合は、あくまで妊婦への犯罪行為が成立するのみです」
そうすると、「胎児」は犯罪の対象にならないのだろうか?
「唯一、胎児への犯罪行為が成立するのは、いわゆる『堕胎罪』の場合です。流産させる目的で妊婦に暴行を加え、その結果流産させた場合は、不同意堕胎罪が成立します」
では、仮に「暴力のせいで流産したが、母親本人は無傷だった」という場合があったとしたら、暴力を振るった人は無罪となってしまうのだろうか?
「いいえ、その場合は、妊婦に対する傷害罪が成立します。
傷害は、『人の生理機能の不良変更』と定義されています。流産や死産は、妊婦の生理機能を不良変更させたと言えるからです。
また、暴力によって胎児に障害が残った場合でも、胎児であるうちに生じた障害の限度で、妊婦に対する傷害罪は成立するでしょう」
そうなると、胎児がいつから「人」とみなされるのかも気になるが・・・。野口弁護士は「刑法では、胎児が人となるタイミング(人の始期)は、胎児の身体の一部が母体から露出した時点だとされています」と話していた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
野口 敏郎(のぐち・としろう)弁護士
昭和53年に司法試験に合格し、同56年東京地検検事に任官。富山地検次席検事、東京地検副部長、名古屋地検部長、東京高検検事、札幌高検部長を歴任した後、平成21年退官して弁護士登録。
事務所名:野口敏郎法律事務所
事務所URL:http://www.noguchi-law.net/