2014年03月27日 18:30 弁護士ドットコム
「STAP問題」のキーパーソンである小保方晴子さんが3年前に執筆した博士論文について、大規模な「盗用疑惑」が立ち上がっている。英語で書かれた論文の約20ページにも及ぶ記述が、米国立保健研究所のサイト内にある「幹細胞の基礎」という文章とほぼ同一なのだ。
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いわゆる学術論文では、他者の見解や研究成果を論拠として用いる場合、その部分をはっきり区別して示すのが、基本的なルールだ。研究者はもちろん、卒業論文や博士論文を執筆する学生であっても、従うのは当然とされていて、これに反すると「盗用」とみなされるわけだ。
もし、大学生が卒論を書く際に、他人が書いた文章をコピペしたにもかかわらず、あたかも自分が書いたように装ったとしたら、倫理的な問題だけでなく、著作権の侵害などといった法的問題にまで発展しうるのだろうか。著作権にくわしい雪丸真吾弁護士に聞いた。
「その場合、著作権侵害となります。複製権侵害(著作権法第21条)の典型事例の一つですね。
コピペにより、他人の言語の著作物がそのまま卒業論文上に複製されていますので、分かりやすい複製権侵害となります」
雪丸弁護士はこのように述べる。つまり「コピペはアウト」と考えていいのだろうか?
「いいえ、それは違います。
論文執筆にあたって、他者の見解や研究成果に言及をすることは不可欠です。この際には正確に他者の見解等を紹介することが望ましいので、元の文章をそのまま論文内に載せること(つまりコピペ)も認められるべきです。
ただしその際には、著作権法にのっとって『正しい方法』で行う必要があります」
それは、どんな方法なのだろうか。
「著作権法上、『引用』(著作権法第32条1項)と呼ばれている方法です。この引用が成立する場合には、著作権侵害にはなりません」
雪丸弁護士によると、正しく引用するためには、一定の要件を満たす必要があるという。それはどんなものだろうか。
「最近判例にも新たな動きが出てきているのですが、伝統的な判例による要件は以下の4つと言われています。
(1)引用対象が『公表された著作物』であること
(2)利用者の作品と、引用される著作物が別のものであると明瞭に区別されていること(明瞭区別)
(3)引用される著作物が、利用者の作品に対して従たる関係にあること(主従関係)
(4)出所が明示されていること」
大学生が卒論を書く際に、気をつけなければならないのはどの点だろうか。
「一般的な話でいうと、(3)の要件を充足するかどうかの判断が、一番難しいとされています。(2)や(4)の要件を欠いているような場合は論外ですので、学生が卒論を書く際には特に気をつけるべきでしょうね。
明瞭区別や出所明示を怠ると、『引用』が成立せず、最初に述べた複製権侵害になってしまいます」
たしかに、卒論の場合、引用部分が主だと見なされるような内容なら、通常は教授に却下されるだろう。出所をどのように明示するか、引用部分をどのように示すかなどの細かな作法については、それこそ該当分野の先行論文が参考になりそうだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
雪丸 真吾(ゆきまる・しんご)弁護士
著作権法学会員。日本ユニ著作権センター著作権相談員。慶応義塾大学芸術著作権演習I講師。2014年2月、『引用』に関する書籍『Q&A 引用・転載の実務と著作権法』第3版(中央経済社)を出版した。
事務所名:虎ノ門総合法律事務所
事務所URL:http://www.translan.com/