2014年03月25日 16:00 弁護士ドットコム
アルコール度数の高い酒や、金魚などを入れたゲテモノ酒を一気飲みして、その様子を動画サイトなどにアップする――。そんな狂気のゲーム「ネックノミネーション」が、ヨーロッパの若者の間で広がっている。
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ネックノミネーションとは、一気飲み(ネック)して、指名する(ノミネーション)という意味。一気飲みの動画を投稿した人が、SNSなど公開の場で次の挑戦者を指名し、ゲームが続いていく仕組みだ。CNNの報道によると、このゲームに参加して、急性アルコール中毒に陥る若者が続出しており、少なくとも5人が死亡しているという。
こうした危険な一気飲みをあおって、せきたてる行為は、犯罪に問われないのだろうか。また、リアルな飲み会であおるのと、SNSを通じてあおるのでは、なにか違いがあるのだろうか。飲酒強要で死亡した大学生の裁判にかかわった経験をもつ井口寛司弁護士に聞いた。
「コップの中で生きている金魚やゲテモノをアルコール飲料に混ぜて飲ませるという行為は、強要罪(刑法223条)にあたる可能性があります。
ただし、強要罪が成立するためには、『生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対して害を加えることを告知して脅迫』したり、『暴行』したりして、そのような酒を飲むように仕向けることが必要です」
このように井口弁護士は説明する。また、体調を崩させる故意があり、本来は食べられないものを酒に混ぜて飲ませ、飲んだ人の体調が悪化するなどした場合は、傷害罪(刑法204条)に該当する可能性もあるという。
「さらに、上下関係や伝統、はやしたて、罰ゲームなど心理的な圧力が加わる飲み会で、ある人を飲まざるをえない状況に陥らせることは、立派なアルコールハラスメントといえます。
犯罪とはいえないとしても、『飲酒の強要』にあたるとされます。この場合は、不法行為に基づく損害賠償責任を負担しなければならないでしょう」
リアルな飲み会で一気飲みを強要すれば、犯罪になってしまう可能性があるということだが、インターネットのSNSや動画サイトを通じて、一気飲みをあおった場合も同じ扱いになるのだろうか。
「現場での直接的なあおりではなく、SNSなどを通じてあおった場合も、故意のほか、その他の要件が整えば、SNSといえども犯罪が成立しないとはいいきれません」
井口弁護士はこう答える。
「最近は、体調や飲酒量によって、本人も周りも気づかないうちに急性アルコール中毒になり、そのまま亡くなってしまうケースも増加しています。
このような場合は法律上の保護義務が認められれば、保護責任者遺棄致死罪(刑法219条)にあたる可能性も出てきます。悪ふざけによる飲酒は、いかなる意味でも本当に危険なのです」
井口弁護士は、大学の部活合宿中に学生が飲酒を強要されて死亡した事件で、原告代理人をつとめたことがある。そのような経験もふまえ、アルコールハラスメントの危険性を強く訴えていた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
井口 寛司(いぐち・ひろし)弁護士
金融機関はじめ各種企業の顧問として活動し、損害賠償問題や内部体制など数々の問題について戦略的なアドバイスを行っている。アルコールハラスメントについては神戸の大学の死亡事件で原告代理人を務め、裁判所が「飲酒の強要」を認めた。
事務所名:弁護士法人神戸シティ法律事務所
事務所URL:http://www.kobecity-lawoffice.com/